第九節 朝の邂逅 ➀
「戦士が戦士に圧力をかけたら、それはもう、良くないことなんだよねえ……」
そう言って、わたしはため息をついた。
「十二番戦線にずっといるから、そういうの知らないのかなあ?」
「……
隣を歩くランドは、ちらっとわたしを見て、静かにそう言った。
――あのあと、
そそくさとご飯を食べ終えたわたしたちは――やけになったわたしはおかわりしたけど――
お店の人に聞いたおあつらえむきの宿屋へ向かっている。
街の喧騒からは、少しずつ遠ざかっていく。
ただ、そうして落ち着いてよくよく考えてみたら、逆にもやもやしてきた。
……そう、イライラしてきたってこと。
いきなりどういうつもりだったの? ホントに。
「はぁ……」またため息をついた。
黙っていると、ランドが話しかけてきた。
「……圧、か……よく考えたら、まだソウって決まったわけじゃないんだよな」
「ううん……あれは、絶対、ソウ」
わたしは顔を上げた。こわばってるのが自分でもわかる。もう叫んでいた。誰もいない通りに向けて。
「
十二番戦線に、あんなワザできる戦士なんてそんなにいるはずないでしょ!
あれは間違いなくカルラの幼馴染み! 力が無かったらライバルなんて務まらないっ!
得体の知れないカルラと張り合えるんだから!」
「それは、褒めてないか?」
「だからといって挑発なんてしていいわけない!」
「……遠くからの圧に気づいたリオナが凄いのか」
「えっ!」
急に照れた。「えー?」
「その忙しい感情はどうなってるんだ……なあ」
と、ランドはひとりごとのようにつぶやいた。
「おちついてきた」
「は……?」
「落ち着いてきました、と言ったの」
「……そうか」笑われて、呆れられた。
「うーん。ランドにはわからないかなあ。
だってさ……そういうことするってことは、
一歩間違えたら――ケンカにだってなりかねないんだよ?」
しばらくの沈黙のあと、
「考える余地はある気がするけどな」と、ランドは言った。
「……たとえば? 挑発と威嚇以外の意図で?」
ランドは首をかしげて、「さあ……」
「……適当」
「おれはここにいるぞ……か?」
わたしは少し考えてから、
「そのあとすぐに立ち去ってるのに? 次会ったらどうするつもりなんだろう」
それも、よく分からないこと。
「あんなことしたらバレるだけなのにね」
「ばれる……?」
「うん。自分のこと話されてるのが嫌だったなら、そのまま立ち去ればよくて、
なのに、挑発なんてしちゃってる。
それなのに、結局は逃げてる。
それで、わたしに捕捉されて。明日の朝家から出ようものなら……捕らえられる」
「……捕捉……」
――あれ、もしかして……ランド、
「今日、気配を送っちゃったわけで、ソウはもうわたしの感知の範囲内に来たら気づかれるよってこと。
魔獣に気づくときと同じで要は、直感だよね。
……人と魔獣が同じなんて決して言ってないからね?」
「何も言ってないだろ……」
やりとりをしているうちに、目的の宿屋が見えてきた。
「おあつらえむきの宿屋はここだね」と、わたしは言った。
足を止めて宿屋を見上げる。
ランドも見上げながら、「おあつらえむきかは、まだ知らないけどな」
「……あ、そうだ」
ふいに思い出して、わたしは言った。
「リーダーがさ、人と人の感知のこと、なんか良い風に言ってたっけ。
たとえ離れても、妙な直感で、またたどり着けるよって」
「へえ」ランドはなぜか嬉しそうだ。ちょっと話しただけなのに、もうリーダーのこと尊敬してる。
「ちゃんと聞いてみたいものだな」
「というか、ランドも出来るはずだよ? 感知能力は高いんだから。その人に一回でも会えば――
試しに、今日わたしを感じてみたら――?」
――――――。
あ。
やば。
なにいってんだわたし。
頭が一瞬で熱くなる。なんて言えばよかったの? みんなできるからそもそも普段感知の説明なんてしたことないし適した言葉は。
とりあえず取り戻さないと……何かを。
「ち、ちが……あ、そういう意味じゃなくてっ……!」あ無理かも。
「……ああ……まあ、昨日と同じく部屋は別ってことだろ……?」
……。
「う、うん、そう……」
「違う部屋で離れるから、試してみろと」
「そう……!」
「明日の朝、近くを張るって話は?」
「と、とりあえず、予定通り……もう逃がさない……」
「わかった……。それで、泊まるときの部屋は、階を分けたほうがいい……か」
「はい……」
ちょっと待って。ランドがリードしてない?
「さすがに、明日は、早く、起きてくれ」
わたしに言い聞かせるようにそう言って、ランドは微笑んできた。
「じゃあ、先に行く」
ランドは中に入っていった。
なんなの、急に
なんでそんな感じになれるの!
ランドだってわたしと似たようなものじゃないの!
――でも、少なくともからかってきたりはしなかった。
……もしかして、ランドなりに気をつかってくれたの?
え……それじゃ……わたしのせい?
「ああッ! 昨日のわたしのせいかっ!」
通りに声が響いた。
背中にいくつもの視線を感じて、わたしは、隠れるように宿に入った。
*
朝――。
ソウは、すぐに見つかった。
そして、気づいたことがある。
ソウには、感知能力が無い――。
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