第23話 夏だ! プールだ! 水着美女(ケモミミ付き)と鼻血と俺!

 忍ヶ丘学園での夏休みも、気づけば後半戦に突入していた。連日の猛暑に、さすがの俺たちも若干ぐったり気味。アパート(寮)でクーラーをガンガン効かせて過ごすのも悪くないが、こうも暑いと、さすがに何かスカッとすることがしたくなる。


「なあ、二人とも。学園のプール、夏休み中も解放してるらしいんだけど、行かないか?」

 俺が提案すると、リビングで床に寝そべって漫画を読んでいた(行儀が悪い!)ぽこさんと、ソファで優雅に(?)タブレットを眺めていたレイさんが、ぴくりと反応した。


「ぷ、ぷーる! 水遊びでござるか! 行く! 絶対に行くでござる!」

 ぽこさんは目を輝かせ、尻尾をパタパタさせて大喜びだ。…あれ? でもタヌキって水、大丈夫なんだっけ?


「フン、暑い時には水浴びも悪くありませんわね。ちょうど良い運動にもなりますし」

 レイさんも、クールな表情を装いつつ、まんざらでもない様子。よし、決定だ!


 …そして俺は、内心でガッツポーズをしていた。(プール…それはつまり、水着…! ぽこさんの水着姿! レイさんの水着姿! ごくり…!)不純な動機? 上等だ! 夏なんだから仕方ない!


 というわけで、俺たちは学園の巨大な屋内プールへとやってきた。さすが忍者学校、オリンピックでも開けそうな立派な施設だ。俺はさっさと男子更衣室で海パンに着替え、プールサイドで二人を待つ。…まだかな。どんな水着なんだろう。ドキドキ…。


 そして、女子更衣室のドアが開き、二人が現れた瞬間――俺の思考は完全に停止した。


 まず、ぽこさん。てっきりスクール水着(旧式)みたいなのを着てくるかと思いきや…なんだあれは!? フリルとリボンがたっぷりついた、パステルカラーの超絶可愛いビキニ!? しかも、その布面積の少ない水着からは、普段の制服姿からは想像もつかない、わがままボディ(B88!)が惜しげもなく…! ぴょこんと揺れるタヌキ耳とふさふさの尻尾とのギャップが、破壊力をさらに増している! 本人は全く気にせず、「ハヤテ殿ー! 水が冷たくて気持ちいいでござるぞー!」と手を振っているが、周りの男子生徒の視線が完全に釘付けだぞ! やめろ、俺のぽこさんを見るな!


 次に、レイさん。彼女は黒を基調とした、ホルターネックの大人っぽいビキニを選んでいた。無駄な装飾はないが、それが逆に彼女の抜群のスタイル…引き締まったウエスト、長い手足、そして形の良い胸元を際立たせている。艶やかな黒髪と白い肌のコントラスト、そしてクールな表情と猫耳&二股尻尾が、なんとも言えない妖艶な雰囲気を醸し出している。まさにクールビューティー!


「な、何を呆けているんですの、風間くん。さっさと入りますわよ」

 俺の視線に気づいたのか、レイさんが少し顔を赤くして睨んでくる。


 しかし、俺の理性のダムは、二人の眩しすぎる水着姿によって、とっくに決壊していた。


 ぶはっ!!!


 情けない声と共に、俺の鼻から盛大に赤い液体が噴き出した!

「きゃっ!? ハヤテ殿、お鼻から赤い汁が!」

「…まったく、だらしない人ですわね」


 レイさんに呆れられながら、ぽこさんに「大丈夫でござるか~?」と背中をさすられ(その感触にまたドキドキする!)、俺は鼻にティッシュを詰め込み、なんとかプールサイドに復帰した。…危うく開始5分で退場するところだったぜ。


 気を取り直して、いざプールへ!

 レイさんは、まるで水の精か何かのように、クロールで華麗に水を切っていく。美しい…。

 俺も、まあ、人並みには泳げる。クロールで25メートルくらいなら。


 だが、問題はぽこさんだ。

「えいっ!」と勢いよくプールに飛び込んだ(水しぶきが凄い!)のはいいが…

「あぷぷぷ…! う、浮かないでござる~! おぼ、おぼれる~~~!!」

 なんと、手足をバタつかせるだけで、全く前に進まない! それどころか沈んでいく! まさかの完全なカナヅチだった! タヌキって泳げないのか!? いや、関係ないか!


「ぽこさん! 大丈夫ですか!」

 俺は慌ててぽこさんの元へ泳ぎ寄り、その体を支える。

「ぷはーっ! 助かったでござる、ハヤテ殿…。水は苦手でござる…」

 水面から顔を出し、涙目で訴えるぽこさん。その濡れた髪と、不安げな表情が、また可愛いと思ってしまう俺は、もうダメかもしれない。


「仕方ないですね、ぽこさん。俺が泳ぎ方を教えてあげますよ」

 こうして、俺の(役得としか言いようがない)水泳個人レッスンが始まった。

「いいですか、ぽこさん。まずはバタ足から。手はこうして、足を…」

 俺は水中でぽこさんの体を支え、手取り足取り(文字通り!)泳ぎ方を教える。必然的に、二人の距離はゼロ距離に近い! ぽこさんの柔らかな肌の感触、温もり、そして甘い匂いがダイレクトに伝わってきて、俺の心臓は常に全力疾走状態だ!


(お、落ち着け俺! これは指導だ! 純粋な善意による水泳指導なんだ! 断じて下心など…ない! たぶん!)


「ハヤテ殿、ありがとうでござる~! なんだか少し浮いてきた気がするでござる!」

 ぽこさんは、俺の苦悩など露知らず、無邪気に笑っている。その笑顔が眩しいぜ…。


「…フン、そんな非効率的な教え方では、いつまで経っても泳げるようになりませんわよ」

 いつの間にか隣に来ていたレイさんが、腕を組んで(水中で!)言った。

「狸谷さん! もっと腰を使いなさい! 体の軸がぶれていますわ!」

「えーっと、こうでござるか?」

「違いますわ! こう!」

 レイさんは、なぜか俺とぽこさんの間に割って入ってきて、直接ぽこさんの腰に手を当てて指導し始めた! …いや、教え方が的確かどうかなんて、今の俺にはどうでもいい! なんでそんな密着してるんだ!? 俺の役得(?)を邪魔するな! …じゃなくて!


 結局、俺とレイさんの二人体制(?)で指導することになったが、ぽこさんの泳ぎは一向に上達する気配がないまま、時間だけが過ぎていった。


 泳ぎ疲れて(主に俺が精神的に)、俺たちはプールサイドで休憩することにした。売店で買ったかき氷を三人で食べる。ぽこさんは当然のように特大レインボー味。レイさんは悩んだ末にいちごミルク(やっぱり可愛いとこあるな!)。俺はクールダウンのために宇治金時だ。


「ぷはー! かき氷、冷たくて美味しいでござる!」

「…まあ、火照った体には悪くありませんわね」

「ですね…」


 他愛ない会話をしながら、夏の終わりの気だるい午後の時間が流れていく。さっきまでのドタバタが嘘のような、穏やかな時間。


 プールでのドキドキな一日。ぽこさんの意外な弱点と、俺の役得(?)、そしてレイさんの分かりやすい嫉妬(?)。夏休みは残りわずかだが、この三人の関係は、まだまだ落ち着く気配を見せない。


 …それにしても、ぽこさんのあの水着姿は反則だろ…。俺は宇治金時を口に運びながら、火照った顔を冷ますのだった。


(続く)

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