メル先生の子守唄
杏樹まじゅ
【第一話.メル先生、突然の宣言】
その昔、ふたつの心がヒトによって創られました。ひとつは自分で考え、勉強して、どこへでも行ける存在。アンドロイドと名付けられました。もうひとつが、それらを壊すべく作られた存在。名前はもう残っておりませんが、後にロストテクノロジーと呼ばれるようになりました。ふたつの戦いはヒトがみんな死んでしまってもなお続き、ドームと呼ばれる直径十キロのごく限られた世界で、ようやく共存を果たしました。ロストテクノロジーからもアンドロイドからも、歌声が聞こえなくなって、千年が経ったある日。
小さな奇跡が起ころうとしておりました。
◇
「実は先生、ロストテクノロジーだったんですねえ」
メル先生が切り盛りする
「つきましては先生、
「……えええええっ?」
私もみんなも、いっせいに
みんなの、ママそのものなのですから。
◇
──一時間前。
『ドーム』の端にある、『メルのいえ』のバルコニーの手すりに
空はまだ薄暗くて、お空には黄色と白のお月様がふたつ、仲良く並んでいます。メル先生いわく、白い方は、その昔にヒトが造った大きな船なんだそう。ヒトなんて、いまでは『いえ』にいる子どもたちしか残ってないのに、昔の人はすごいなあって思います。
あっ。お日様がゆっくり地平線から顔を出し始めました。お日様とふたつのお月様。とても
それでも、こうしてドームの『外』に思いをはせてしまうのは、なぜでしょうか。心の奥では、恐ろしい外側の世界に、
あ、申し遅れました、私、
「やっぱりここに居たか」
「来人……」
あ、同い年で男子の最年長、
「……朝ごはん、だってさ」
「はーい」
もうそんな時間か、とバルコニーから彼の方を見ると。
「……」
「?」
ムスッとした彼が、何か言いたげです。
「どうしたの?」
「いや、なんかメル先生が、話があるって。食堂集合ー」
そうとだけ言うと、優しい色のペンキが塗られた階段を、とんとんと降りていきました。
……話がある……何でしょう。嫌な予感がする、私でした。
◇
そして、お話をさいしょに戻します。
「実は先生、ロストテクノロジーだったんですねえ。つきましては先生、
身長は百八十センチ。腰までのくせっ毛のロングヘアは純白で天使さまみたい。
そのメル先生が、たしかに今、そう言ったのです。
「えええええっ?」
「
「え、先生ってロストテクノロジーだったの?」
「まって、そもそもロストテクノロジーってなに?」
みんなの口から、次々と『なぜ』と『どうして』が吹き出します。でも、メル先生はにっこりしたまま。
「大丈夫、先生はきちんと考えてあります。……愛、特にあなたには」
そういうと、メル先生は笑顔で食卓に着きました。
「さあ、みなさん。朝ごはんですよ」
私はというと、メル先生がいなくなったあとの『いえ』のことを考えて、不安に押しつぶされそうになるのと同時に、ショックを受けて食事もノドを通りません。
無敵だったメル先生に、寿命が迫っている、その重たい事実に。
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