第30話 勇者様とダンジョンに行こう-2
気が付いたら朝の素振りには餓鬼どもだけじゃなくて、大人まで混ざってきてる。別にいいんだけどよ。
持ってるもんは様々だ。薪だったり角材だったり木の枝だったり。ちゃんと持てるもん、持ちやすいもんにしろとは言った。ちなみにサイクロプスが持ってた棍棒を、俺は最近使っている。ゴブリンどもの使っていた粗末な棍棒より、重くて使い勝手いいんだよな。ちなみに村人総出で持ち上げたがったので貸してやったけど、持ち上げられたのは大工のドミニクだけだった。持ち上げられただけだけど。
サイクロプスの棍棒は、属性の無いものは一本使ってもう一本を予備として宿において、それ以外は売り払っている。使う奴はいないかもしれないが、それでも焚き付けくらいにはなるだろう。村の大工では解体できなかったから、町の冒険者のギルドまで持って行ってる。手間ではあるが、まあいい。
毎日ジジイと一緒に底まで潜って、アイテムバッグが一杯になったから、ジジイからの手紙をもって町まで行って。次は、一日九回、一階の周回だ。いや。問題ないんだけどな。目標は一応、目を綺麗にした状態で倒す、だ。石投げれば一発なんだけど、ジジイから他の方法を模索しろと言われた。いいじゃねえか別に、倒せるならそれで。
瞼と眼球と、それから心臓と両足の腱と、棍棒だけで鞄が一杯になったら町に戻って次は一階と二階を周る。余った時間は、村の広場で村人たちと素振り。その次は一階と二階と三階をめぐって。
割合面倒くせえけど、悪い生活ではない。食材を買って帰れば、村の奥様方が飯作ってくれるし。布買ってったら服も作ってくれるようになった。一応ダンジョンだから宝箱もあって、そこから装備品は出るんだけど、普段着は入手できねえからとても助かってる。お礼はなんかかわいい布だ。町で布を売ってる店のおかみさんに相談すると安くてかわいい布を端数のコインで売ってくれるようになったので、まあいい生活に分類されるだろう。
「お前たちもダンジョンに行ってみるか?」
ジジイがそう言い出したのは、俺が一人で四階の、ミノタウロスっていう牛のサイクロプスに勝てるようになって、それから五階の、こっちは体が牛で、顔にでっかい一つ目がついてる牛も倒せるようになった頃だった。この五階の牛はとても気持ちが悪いので、ギルドの姉ちゃんに何と言われようが投石である。あれは無理だ。ちなみに肉はちゃんとした牛の肉だった。ギルドにもちょっと持って行く予定ではあるけれど、基本的には村で食べている。村人の目の色がちょっと変わった。ダンジョンに潜ってみてもいいかな、って方向に。
「いやあ、無理でしょう」
少し寂しそうに、村長が言う。まあな。あの牛の肉食いたいだろうけど、普通は無理だな。
最近、俺と一緒に素振りをやってる村人たちは、大工のドミニクが作った木の剣を使っている。最初の頃は木の枝だったり薪だったりその辺の角材だったりしたんだが。
「なに、戦うのはバティストだ」
「ジジイも行くんなら、安全だな」
このサイクロプスのダンジョンは、下に潜るタイプだ。あの巨人サイズの階段を登るのはごめんだが、下るのならまだましだ。まあ、帰りはその分登らねえといけない気がするんだが、ダンジョンというものは魔力に満ちていて、サイクロプスを倒すと入り口までの直通の階段も出る。そいつは登りだから分かり易いし、すぐに入口につくから文句はない。
俺は使えないが、ジジイは結界の魔法が使えるから安全だ。それに。
「儂らはいつまでもここにはいねえ。村のモンが誰か冒険者になって、たまにあそこのダンジョンを間引けるようになった方がいいんじゃねえか」
一人である必要はない。俺は修業を兼ねて一人で潜っているだけで、大体は四人から六人くらいで徒党を組むもんだ。その辺りは、ジジイが教えるだろう。俺たちがいる間に、学んでおけばいい。
「行きたいです」
「俺も行ってみてえなあ」
「見学だけならなあ」
勇者様にデオダ、それから大工のドミニク。この三人につられるようにして、他にもちらほらと希望者が現れる。それは、俺と一緒に素振りをしている連中だった。
単なるお試し、状況の確認。いずれ来る間引きの時のために、自分達で出来るようになっておく。そんな綺麗ごとを並べて、ジジイが村長をサラッと説得した。実際のところは、勇者様の育成なんだけどな。
何日もに分けて、希望者全員とダンジョンの底まで行くことになった。戦うのは俺だけで、いや六階以降はジジイもちょっとは魔法使ってくれるけれど、村人たちは単なる観戦だ。ちなみに俺の勝てる、っていうのは、無傷でってつく。怪我してもいいなら最後まで一人で行けるけれど、それは修業じゃねえだろって、ジジイに言われた。まあな。
「すごかったんだって! バティストめっちゃ強いの!!」
デオダがめちゃくちゃ興奮しながら、ダンジョンに行かなかった村人たちに語る。今回は子供たちもいるから、心臓なんかの剥ぎ取りはしていない。怖がられても困るしな。見えないように瞼だけ剥いでおく。これは提出しないといけないから。
「俺もあれくらい強くなれるかなあ!」
どうだろうな。その辺りは俺じゃなくて、ジジイに聞いてくれ。俺たちがここにいる間でよければ、素振りなんかに付き合いはするが。どうせ俺もやるわけだし。
俺が七階まで一人で行けるようになるころには、ジジイと一緒なら、という条件の下、三人の大人と、七人の子供がサイクロプスダンジョンに挑むようになっていた。勿論、子供の中には勇者様が入っている。ちょうど五人ずつの、パーティーになったようだ。
「バティストは、おかしいよ」
「おう。俺は最強にならなきゃいけねえからな」
勇者様はこの後、女神さまの導きでなんかあるらしいけれど、俺にそんなもんはない。そんなもんはない状態で、俺は最強の一角を占めねばならないのだ。ちなみに、他にいるのは北の賢者様だ。寿命違うんだけどなあと言いたいが、言ったところで俺の目標が変わるわけでもなければ、魔王が待ってくれるわけでもねえ。残された時間は、それほど多くないんだ。多分。
ここがスライムとかゴブリンとかのダンジョンなら、それほど大変でもなかっただろう。けど生憎とここはサイクロプスのダンジョンだ。一つ目なら何でもいい訳じゃねえんだぞと、俺でも文句を言いたいし何ならジジイは悪態をついていた。だよなおかしいよな。なんで巨人だけじゃなくて魚とか牛とか蛇とかケンタウロスとかいるんだよ。訳が分からんわ。
「魔王を倒すんだとよ」
俺は奴隷で、俺の本当の主はあのジジイじゃないってことを、村の人たちはもう知っていた。アベラールの王子さまだっていうのは、まだ言ってないけど。いやさすがにな。それは言えないだろう。
「なんで、バティストが」
「じゃあカミーユも行こうぜ」
「俺が?」
「そう。俺は一人でこのダンジョンを踏破できるようにならなきゃならない。それは別にいい」
出来るかと言われれば、出来ると答えられる。それは今じゃないかもしれないが、前の俺は簡単にできただろう。無傷で、敵の目を潰さず、出来る限り一撃で、革に損傷もないようにして。無茶言いやがるよな、ギルドってのは。
「けどお前たちは、一人じゃなくていいじゃねえか。それとおんなじだ。魔王に挑む奴が増えれば、俺一人が最前線に立つ必要はなくなる」
まあ、前に俺が一人で最前線に立ってみたら、俺がとどめ刺した瞬間世界崩壊したけどな。
だから俺たちは、というか王子様は勇者様を求めた。多分俺が、奴隷じゃなくてなんかもうちょっと違う思考回路を持っていたら、何か思ったのかもしれないが。ジジイにお前なんとも思わんのかって聞かれたことがあるから、ここで何か思うのが正解なんだろう。
俺は俺の主が思うように、斧をふるうだけだ。あのミノタウロスっていう牛が持ってた斧、モノがいいんだよ。貯めこんでおきたい。出来れば全属性揃えたい。
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