第10話 陛下が会いに来ました-3

 王子様についたのが乳母じゃなくて爺やのは、途中で変わった可能性はまだあるけれども。詳しく聞いたことはないから。だって、どうだっていい事じゃねぇか。


「だから、シリル。私達は知っているのだ。お前が魔王討伐に向かうことも、これまでにも失敗していることも。手伝わせてはくれないか」

「なんで、いま」


 まったくもってそうだよな。

 王子様が知らなかったってことは、今までは陛下はそれを言わなかった、ってことだ。いやまあ、前の陛下が何で言わなかったか、っていうのは、同じだけれど違う陛下だから、分からないけれど。陛下は分かるんだろうか。同じだから。


「前の私は、手伝わなかったのだな?」

「はい。今はじめて、知りました」


 王子様はこちらを見ない。いつもだったら、俺を見たかもしれない。けれど、陛下を見ている。真っすぐに。

 これまでだって別に、溝があったかどうかは、駄目だ、分からん。そもそも俺には親がいない。胎と種はあるかもしれんが、あれは親ではない。だからそういうのはよくわからん。セドリック団長の所くらいしか親子なんて知らねぇし。


「そうか」


 陛下が、俺を見る。え、膝つかなきゃダメ?

 ジジイを見たら、軽く首を横に振ったから、そういうわけでもなさそうだ。どうしろと。


「彼だよ。バティストがきてから、お前は変わっただろう。ベランジュに頼むことが増えた。私はそれを、良い変化だと思う」

「……そう、そう、ですね」


 王子様は戸惑っている。

 ちなみに俺の視点から言うと、陛下は別に王子様の事を適当に扱っていた訳じゃない。普通に一緒に飯も食っていたらしいし、こうして遊びに来るのも初めてじゃない。前の時にも来ていた。


「また来よう。その時には、是非私達も頼って貰いたい」


 ジジイがドアを開けて、陛下おうじさまについたのがうばじゃなくてをお見送りする。俺は王子様の側に戻って、そこからお見送りだ。

 今の俺は王子様のお付きだからな。王子様のそばをジジイが離れるなら、俺が王子様の側に行くもんだ。


「どうして」


 混乱しっぱなしの王子様がぽつりと言う。そんなに不思議なことかね。


「王子様、確か最初の方はご自身の能力あげしてたでしょ? 軍事関連調べてみたとか、魔法の練習してみたとか」

「そう、だね。その過程で、家庭教師をお願いはしたけれど」

「その手配、不審がらずにしてくれたんでしょ? でも、今回は前回とも違って、聖女様にコンタクトを取ってみたり、勇者様を探してみたりしてるじゃねえか」

「二人には、以前にも手紙を出したことが」

「手紙だけだろ?」


 今回は、自己完結しないで動いた。

 聖女様に会いに行くには、まあアポ取りだのなんだので陛下へ話がいく。ジジイがジジイの手勢だけでどうにかできる話ではない。道中の領主に連絡も必要だったし隣の国でもそれは同じことだったわけだ。陛下の手助けがなければ、王子様には難しい。特にまだ子供で、なんか権限とかあるわけじゃねぇし。


「大体の事はジジイが出来ちまうから、陛下は何かをする必要がなかっただけじゃねえの?」

「左様で御座いますな」


 そのジジイを王子様の爺やにしてるって時点で、国としては最大限の手伝いをしていたわけだ。今までは。

 けど今回は、まあ発案俺なんだけれど、これまでに比べると大分派手に動いている。陛下の、王様の、国王の、何なら国の手が必要なら貸すよ、という話なわけだ。あとは多分、親として、ちゃんと見てるよって言いたかったんじゃねぇかな。セドリック団長見てると、そんな気がする。


「例えばほら、聖女様だって、あの修道女の人と一緒に討伐隊に参加して……なんで王子様いつも一人なんだ?」

「どういうことですかな」


 ジジイがこっちを鋭く見てくる。いやそんな目で俺を見んなよ。俺の決定じゃねぇだろ。


「討伐隊によ、俺はその時々の持ち主が武器を差し出すノリで出されてたんだけどよ。前回は王子様のお付きって立場だったし、騎士団の人らは俺を誇らしく送り出してくれたんだよ。けど、俺だけだったし、ジジイもついて来なかったんだよな」


 おかしい話だと思う。

 色々な手配、それこそ飯だったり宿だったり情報だったり、それらの手配を王子様が一身に行っていた。普通そうじゃないだろ。陛下だって今、部下を使って休憩作ったんだぞ?


「あ、一人じゃないよ。ベランジュも一緒」

「それはようございました」


 ジジイがめちゃくちゃほっとしている。

 置いてきたら、勝手についてきそうだな、ジジイ。多分その場合、俺は気が付かないぞ。前回来てたのすら、今知ったくらいだしな。

 事実、俺に教える必要はない。俺の仕事は最前線で武器をふるって目の前の敵を殺すことであって、王子様を護衛するわけじゃなかったから。騎士団の連中は、そうは思ってなかったけどな。ジジイとその配下がいたのなら、そいつはよかった、ってだけだ。


「勇者様もいいんだよ。てめえの事は手前で出来るだろ。なのに王子様なのに、王子様は目に見える世話人、連れてねえじゃねえか」


 今だって、この王子様が住まう区画に人はほとんどいない。正確にはいるけれど、王子様や俺の目の前に姿を現すのはジジイくらいだ。ジジイがなんでもこなせちまうからそれでいいのかもしれねえけど、他の王子様お姫様、いやお姫様はまだお小せえから別として、王妃様だって、いや王妃様のあの服は一人じゃ着れねえ気が確かにするけどさ。そういう、そばで世話をする人、ってのを置いてるわけだ。

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