第2話 バティストは前にも魔王討伐に参加していることを思い出した

 俺は以前に何回か魔王討伐軍に参加している。参加しているというかさせられているというか。その時々の主が俺を売り渡している感覚があるが、まあ、お貴族様は奴隷に対して人権をお認めになられていらっしゃらないから、それで合っているんだろう。

 どの時も、俺の種であるくそったれ伯爵の元にはすでにいなかった。くそったれにしてみれば可愛いはずの、クソ女の胎から生まれたはずなのに、まあいい。大体どの時も、俺は腕がないか片目が見えない状態で、体中に傷があった。まあ動くからいいんだけどな。

 奴隷剣士なんてものは肉盾だから、お優しいはずの聖女様ですら毎回俺から顔を背けておいでだった。一番真っすぐ見てくれたのは、王子様だったな。

 腕がなかろうが片目が見えなかろうが、なお俺は強かった。勇者様と肩を並べて戦える程度には。だから聖女様は、まあまずは勇者様の怪我を治すのだけれど、俺を視界に入れないようにしながらも、治療は行って下さった。他のそういう事ができるやつに任せりゃいいのにな。飯だって、その辺のことは王子様がなさっておいでだったからたらふく食えた。俺みたいな奴隷も、ならず者に五歩くらい踏み込んだ斥候も、必要とあらば王子様はお側近くにいても文句を言わなかった。

 まあ、戦況の報告だとか、護衛だとか、そういうやつだけどな。あぶねえからそこを動くなと言えば、王子様はこちらを信じてくれたので護衛はしやすかったのを覚えている。なんで俺が護衛をしていたのかは思い出せないが。

 王子様の、魔王討伐ご一行での担当は金だ。

 勇者様ご一行とはいえ、移動するには金がかかる。飯も食う、聖女様がいらっしゃるから、泊まれる範囲で宿に泊まる。そういやあ、王子様も聖女様も野営に文句を言わなかったな。戦う能力を持ってらっしゃらない王子様と聖女様は、夜番は無しだ。

 そういや勇者様も、俺に対して思うところはないみたいだった。自分だって運が悪けりゃ奴隷剣士、というすれすれのところにいたらしいってのを、あいつ名前なんだっけ。まあいいや、誰かから聞いた記憶すらある。

 勇者様と言えば奴隷の証ってどれだって聞いて来て、王子様にどつかれていたな。俺の場合は、心臓の上に刻まれている。顔に刻まれているよりはましだ。

 魔王戦。魔王戦な。

 端的に言って、俺たちが弱かった。

 決定打にならないどころか傷すら負わせられていたのかどうかも自信がないありさまだ。まあ、初回がそんな感じで、その後ちょっとずつ善戦している、と感じられた。まあ感じられただけで、実際のところはよくわからん。

 何でかって? 負けてこうして、死んでいるわけだからな。

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