最強ダイエッターは学園一の問題児を学園祭に誘う

御剣ひかる

01 学園祭に出ようよ

01-1 うちのクラスの問題児

 二学期の始業式。体育館で並んで座って先生の話を聞く。

 夏休みが終わってみんなだるそう。わたしもなんだけど。


 他の女の子より十センチぐらい大きいわたしは膝を抱えてちょっと縮こまってる。青の細いリボンタイを巻き込まないようにして紺地に白のチェック柄のスカートの上にちょんと顔を乗せる。

 後ろの友達がそんな気を遣わなくていいのにって小さく笑ってるけど、でかい、邪魔とか言われるのって悪気ない言葉でも結構傷つくんだよー。


 校長先生の話が始まった。

 ……あ、これ長いヤツだ。立って聞かされてたら絶対倒れる人続出だわ。

 二学期を過ごす心得から、ここ七星しちせい学園の教育理念、異能者と非異能者が共存し手を携えて社会を担っていく、って話につながってくな、きっと。


 それめちゃ理想、なんだけどね。


「また長くなるね」


 後ろの友人が囁いてくる。


「そだね」


 囁き返す。


「異能者と共存っていうけどさー、怖い人とは無理よね。うちのクラスの錬堂れんどうくんとか」


 名前が出て、本来彼がいるべき列の後ろをちらと見る。

 話題の人は、いない。サボリだ。


「それよりひーちゃん、帰りどっか寄る?」


 天津あまつ久代ひさよで、ひーちゃん。わたしのニックネームだ。苗字の方から、あまっちゃんって呼ぶ子もいる。


「んー、どうしようかな」


 今日のカロリーコントロールはしっかりできてるからフレッシュドリンク一杯なら大丈夫かな。


「あ、カロリー計算してるー?」


 くすくすと笑われた。


 だって、そうしないと、わたしすぐ太っちゃう体質なんだよ。体をあまり動かさない日は基本のカロリー摂取量近くでとどめたいんだ。


「ジュースなら付き合うよ」

「やったぁ」


 答えを出したわたしに友人は親指をぐっとたてた。




 始業式が終わって、教室に戻る。


 担任の神谷かみや先生は、校長先生とは逆で要点しか言わないからそういう意味では人気だ。背もめちゃ高いし、クール系だし。細渕の眼鏡をくいっと上げるしぐさなんかは、確かにちょっとかっこいいかも。

 でもクールすぎて苦手っていう子もいる。それもうなずけるな。特に課題の提出の期限は厳しい方だし。遅れた理由が先生のいうところの「正当なもの」でないと受け取ってもらえずに成績に影響しちゃう。


「今日はここまで。それではまた明日。気をつけて帰ってください」


 神谷先生が挨拶すると、わっと教室が賑やかになる。


 先生はちらっと教室の窓際、一番後ろの席を見やってから出ていった。

 錬堂くんの席だ。先生も気にかけてるんだね。


 実はわたしもちょっと気になってる。


 錬堂れんどう竜也りゅうやくん。身長は百八十センチぐらいかな。並んでわたしより高いって一目で判るくらい差があるのは男子でもそんなにいないから貴重な存在かも。

 普段から厳しい顔してるけど、授業中寝てたりする時の顔は、……ヌケてる。絶対本人には言わないけど。


 錬堂くん、中学の途中でここの学園に転校して来てからすぐに「学校一の不良」って噂が立ったらしい。絡んできた当時の不良グループを一人で叩き伏せたんだって。

 で、噂が噂を呼んで今じゃ「学園一の問題児」にグレードアップしちゃってる。


 彼は「極めし者」って呼ばれる、体の中の「気」を「闘気とうき」として扱うことに優れている肉体派な異能者だ。それが彼のイメージをより怖いものにしてる感じ。


 でもわたしが知る限りなんだけど、彼が自分から理不尽に暴力を振るってるのは見たことがない。どっちかっていうと一人でいるのを好んでると思う。


 わたしは高校から七星学園に来たから知らないだけで、もしかしたら錬堂くんも中学の時はすごく「やんちゃ」してたのかもしれないけど。


「ひーちゃん、いこー。スイーツストア!」


 友人のマイちゃん――始業式ん時、後ろから囁いてきた子がわたしの制服の袖をくいっと引っ張った。


 わたしが女子の平均身長をかるーくオーバーしてて身長差十五センチくらいあるから、ってのもあるけどマイちゃんかわいらしいんだよねー。大きな丸い目が特徴的で、一つ括りにしている背中までの髪が動くたびひょこひょこ揺れるのがいい。つい頭なでたくなるよ。子ども扱いしないでよって怒られそうだからしないけど。


 わたしも目は大きい方なんだけどどっちかというと凛々しいって言われる。キツい、よりはいいけど凛々しいってあんまり女子に使う誉め言葉じゃないよね。

 髪がショートなせいもあるかも。だったら伸ばせばいいんだけど、伸ばすと首がこるんだよね。


 マイちゃん達と、学校の最寄り駅近くにある大型ショッピングセンターのフードコートに向かう。学校帰りの生徒達でいっぱいだ。フードコートの席を十分ぐらいぐるぐるして確保する。


 友達一人を席に残して、マイちゃんと「スイーツストア」に買いに行く。

 わたしはしぼりたてオレンジのフレッシュジュース、なんだけど……。


「あら、ごめんねぇ。今ちょっとオレンジ切らしてて」


 なんとっ!?


「ひーちゃんもクレープ食べようよ。野菜系なら大丈夫じゃない?」


 マイちゃんの誘惑に、ちょっと考えて、うなずいた。

 ここで「カロリーオーバーだから食べない」なんて言って場の雰囲気壊したくないし。

 家に帰って、いつもの運動メニューをもう一セットすればいいや。


 クレープを買って席に戻る。

 話題は夏休みのことと、それが終わるとネットとかテレビとかで見かけた話。……なんだけど……。


 視界の隅に、見知った人に似た人がちらりと入ってきた。

 思わずそっちを見る。


 錬堂くん――って、茶髪通り越して金髪に近い色になってる!?

 いくらうちが自由よりな校風だからって、あれは先生たち怒るんじゃないかな。


 白のワイシャツに紺のズボン。あれ制服だよね。

 制服着てるってことは学校には来てたんだ?

 あ、いや、家の人に学校行くふうを装ってたら制服着て出ていくか。

 ってかなんでここにいるん?


「あ、あれ錬堂くん? なにあの髪」

「染めたのかな。夏休みだったしねー」

「また神谷先生がお説教だよ」

「あと、委員長も」

「あー、またバトるんかな」


 友人のやりとりにうんうんとうなずく。


 うちのクラスの委員長、真面目さんな上に「極めし者」だから錬堂くんとはよく衝突するんだよね。ヒートアップすると闘気も飛びかねないから困ったもんだ。


 わたし達の視線に気づいたのか、錬堂くんがこっち見た。

 マイちゃん達が「ひょえっ」って小さい声を出して縮こまる。

 錬堂くん、つまんなさそうな顔をふいとそらして、食品売り場の方に歩いてった。


「あー、びっくりした」

「明日絡まれるかなぁ」

「そもそも来ないんじゃない?」

「その方がいいわー」


 どうかなぁ。行事はサボるけど、なんだかんだで授業には普通に出てきてるんだよね。しょっちゅう寝てるのを怒られてるけどね。

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