好きだった子に告白されたのに、素直になれなかったらDQNにNTRれた。

仲村アオ

第1話 ずっと好きだった幼馴染が

「ねぇ、突然だけど、手毬てまりくんってさ……好きな女子とかいないの?」


 誰もいない、西陽が差し掛かり始めたオレンジ色の教室で、日直を手伝ってくれた幼馴染、日和ひよりが紅潮した顔で恥じらいながら聞いてきた。


 ——きた、キタキタキタキタ!


 なに、コレ! 恋愛趣味レーションのような甘ったるい現実離れした特殊イベント告白タイム⁉︎


 まさか自分のような人間にも、こんなチャンスが訪れるなんて思ってもいなかった。


 俺、西戸にしど手毬てまりは、イマイチ目立たないモブよりの帰宅部だった。そんな俺が唯一自慢できることは、クラスでも上位に入る美少女、山本やまもと日和ひよりが幼馴染であることだった。


 学校一には及ばない。だけど愛嬌があって優しくて顔が整った日和は、俺のようなモブ達にとって憧れの存在で、密かに思いを寄せている男子が数人ほどいることもリサーチ済みだ。


 そんな日和が俺に興味を抱いているなんて。


 しかも、好きな女の子!


(これで勘違いするなと言う方が正しいだろう‼︎)


 うおおおおおおぉぉーっと叫びたい気持ちを抑えながら、俺はポーカーフェイスを装いながら答えた。


「別に、俺のことなんて日和には関係ないだろう?」


 スン……っと、興味なんて微塵もない装いで、俺は日和を突き放した。


「それはそうかもしれないけど……だって」


「そんな下らないことを話している時間があったら、さっさと帰りたいんだけど?」


(違う、違う、違う! おい、俺! 何で思っていることと別のことを言ってしまうんだ!)


 そう、俺は日和のことが好きなくせに、素直になれない天邪鬼野郎だった。


 童顔で一六〇センチ前後のベビーフェイスなことが原因で、何かと回りから揶揄われていた俺は、強がってしまうことが常備となってしまったのだ。


 心の中では日和と仲良くしたくて堪らないくせに、アベコベなことを発してしまう自分が嫌になってしまう。


「日誌も書き終わったし、そろそろ教室を施錠して帰るけど、日和はどうする?」


「ん……っ、私も手毬くんと一緒に帰る」


(おい、俺! もっと気の利いたことを言えよ! せっかく日和が手伝ってくれたのに、お礼の一つも言えないで……! 俺の馬鹿ァ!)


 そんな俺に愛想を尽かすこともなく、静かに隣に並んで歩いてくれる日和。


(お礼、お礼! 今日も手伝ってくれてありがとうって伝えなきゃ!)


 だが、少し泣きそうな表情で俯く日和の顔が可愛すぎて、ほわぁーっと見惚れてしまっていた。


(——じゃ、ねぇ! 違うだろ! そんなことよりも今日こそはきちんと、日和に言わなければ!)


 覚悟を決めたように手を握りしめて、俺は「日和!」っと足を止めた。


「え、手毬くん……?」


「あ、あのさ! きょ、今日も俺の為に……その、ありがとう」


(ぐはぁ! 違う! いや、お礼も大事だけど、違うんだ! 俺が伝えたいことはもっと、核心に迫った……! す、好きだっていう熱い想いなのに!)


 テンパって混沌カオスとなった思考中の俺に、日和は「くすっ……」と笑って目を細めてきた。


「気にしないで。私が好きで手伝っていることだから。久しぶりにゆっくり話ができて、嬉しかったし」


(ひ、日和ちゃーん!)


「——そう、それならいいけど」


 胸中の言葉と表情が正反対のまま、俺は動揺を隠したまま歩き始めた。


 …………うぅ、恐い。

 今が幸せだから、下手に告白なんかして現状が壊れてしまうのが恐ろしい。


 そう、そもそも告白をしてうまく行ったとしても、それがゴールではないのだ。その先、ケンカをしたり嫌われる可能性だってあり得るのだ。


 せっかく大好きな子の幼馴染というポジションを陣取っているのに、自ら手放すなんて愚者のすることなんじゃないだろうか?


(そもそも普段の俺はクールで大人びた、見た目とギャップのある童顔男子……。中身もガキな日和ちゃん大好きな男だってバレたら、一瞬で振られてしまうんじゃないだろうか?)


 せっかく奮い立っていた感情がシオシオと萎れていく。


 無理、今の俺は塩を振りかけられたナメクジだ。


 うん、そうだよ……そもそも本当に日和が俺のことを気になってくれているのかも分からないし、自惚れること自体が愚かなんだ。


 現状維持、それが俺達にとってのベストだ。


 そう思い直した、その時だった。


 不意に掴まれた上着の裾。

 ハッとして振り返ると、そこには涙目になりながら唇を噛み締める日和の姿が……。


「あ、あのね! 私……ずっと手毬くんのことが好きだったの! よかったら私と付き合ってくれませんか?」


 き、き、きききキタ! キタキタキター!


 やった、これは確実!

 っていうか、あの日和が俺のことを?


 スゲェ嬉しい! 泣きそうだ!


 だが、さっきの思いが脳裏を過って——思わず俺は反射的にこう口にしてしまった。



「ごめん、俺は日和と幼馴染でいたいんだ」



 シン……っと、静まり返る廊下。

 日和の口角がピクリと動いたのが分かった。


「……え? て、手毬くん……それって」


 ワナワナと溜まっていく涙を見て、やっと俺は我に返ることができた。


 え? 俺、何を言った?

 違うだろ! だって俺は、日和のことが好きなのに……!


「違……っ! ごめ、あの、俺は!」


「う……っ、うわぁぁぁぁぁぁぁ! 手毬くんの馬鹿ァ!」

「日和ィィィ! 違うんだ! 待ってくれェ!」


(馬鹿、大馬鹿野郎か、俺は! せっかく日和が告白してくれたのに、何てことを言ってんだ、俺は!)


 だが、必死に追いかけたのも虚しく、全力疾走した日和に追いつくこともなく……俺は大好きな子の告白を拒むという救いようもない結果を残してしまった。


「死にたい、死にたい、俺ってやつは本当に救いようもない馬鹿だ」


 電話もメッセージも全部未読スルー。


 なす術もなく落ち込んでいた俺だったが、本当の絶望は始まったばかりだった。


 次の日、落ち込んだまま学校へと向かうと、やけに教室が騒がしかった。


(くそ……っ、人が落ち込んでいる時に何だよ)


 睨みつけながら自席に座って、話題の中心に目を向けると、そこには照れながらチャラ男に肩を抱かれた日和の姿が……。


 見間違いかと思って、何度か目を擦ったが、やはり日和に間違いなかった。


 あれ、どうしたんだ?

 だって、昨日、日和は俺に告白をしてきて、それを愚かな俺は断って——……。


「ってことで、俺と日和ちゃん! 今日からお付き合いすることになりましたので、そこんところよろしく!」


 ドッと湧く教室に反して「は?」と呆気に取られた俺。


 え? ええ? ——え⁇


 え、日和……昨日、俺に告白してきたはず?

 もしかしてアレって、俺が見た白昼夢⁇


「青野と日和さん、タイプが違うから大丈夫かなーって思ったけど、青野が猛アタックして付き合ったんだってね」


「よく見たらお似合いカップルかもね」


 いや、青野って……女遊びが激しい上に上級生にもケンカを売るような常識はずれのDQNだろ⁉︎


 真面目で可愛い優等生タイプの日和に相応しいわけがない!


「俺が幸せにしてやるから、安心してね日和ちゃん♡」


「うん、これからよろしくね、青野くん♡」


 俺の天邪鬼気質が生んだ、ありえない地獄絵図。


 あぁ、これからクソみたいな日常がスタートするなんて、本当に救いようがねぇよ神様よォ!


 ————……★


 一筋縄じゃいかないのがラブコメの真髄。


 お読みいただきありがとうございます!

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