第9話 コウヅキレイの日記

記録者:コウヅキ レイ


 一日目

 ミフネアイカの拠点に辿り着いた。色んなことを忘れないように、メモしていこうと思う。ここは安全ではないが、壁で視界が遮られる上、城から遠いので魔物も少ない。


 比較的、過ごしやすい場所だ。

 俺も今後はここを住処にしたいと思う


 戦果

 スライム1体

 ゴブリン1体


 二日目

 眠れなかった。けれど体は絶好調、多分レベルアップのおかげだと思う。今日は観察のレーダーを頼りに死体漁りをしながら、倒しやすい魔物を狩っていた。倒しやすいと言っても、魔物は魔物。


 今日は右の手首から先がなくなった

 レベルアップで戻ってよかった。でも、痛い。(何度も文字を消した痕跡がある)


 戦(涙でかすれて文字が消えている)

 ゴブリン三体

 子兎五体


 三日目

 違った。メンタルの不調で眠れなかったんじゃなくて、ここにいる間は睡眠を必要としないみたいだ。昨日の夜はずっと右手をなくしたときのことを考えていた。痛かった。あんなことをこれから何回繰り返すんだ?


 もうい(何度も文字を消した痕跡がある)


 強くならなきゃいけない。もう、あんな思いをしないために。

 今日も狩りと死体漁りをした。スキルは順調に揃ってきている。


 四日目

 この場所の端に辿り着いた。透明な壁みたいなものがあって、触れたら弾かれた。


 出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない出られない



 五日目


 今日、魔物に囲まれた。十体は居たと思う。そのときに、沢山攻撃を受けた。先ず右目がなくなって、左腕がなくなって、足がもげて、なんとか倒した。レベルアップで傷は塞がっていた。


 


 だめだ。もうだめだ。日本のことをおもいだした。お母さんといっしょに居たときのことを思い出した。こわい。なんでこんなことしなきゃいけないんだ。こわい。こんなことになるなら、人なんてたすけなきゃよかった


 トラックのことを思い出すと、ぜんぶなくなりそうでこわい。くさむらが見える。いつのことか覚えてない。どろだんごをつくっていた。


 こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい


 戦果

 たくさん殺した。怖かったから。死にたくなかったから。

 何体殺したかは覚えてない



(六日目から九日目は真っ赤に塗りつぶされている。恐らく、コウヅキレイの血液)



 ◆



 十日目

 昨日の夜、気を失った。ここでは眠れないはずなのに、いつの間にか意識が落ちていた。その後、あんなに乱れていた心が落ち着いた。試しに魔物と戦ってみたが、恐怖はなくなっていた。


 何が起きたのかはわからない。

 自分の心を守るために、頭が何かしら反応を起こしたのかもしれない。


 不思議な気分だった。恐怖もなければ、楽しさもない。真っ白だ。

 俺は、ここで生き残るために進化したのかもしれない。わからない。進化したということにしたい。ここで生き残るために、大事な何かを失ったなんて思いたくない。


 もう、母の顔が思い出せない。



 戦果

 鷹:空を飛んでいる魔物。強い。左半身全部の代わりに倒した。リスクリターンが合わないから遠距離攻撃手段を手に入れられるまで狙わない


一体


 スライム 二体

 ゴブリン:群れを潰した 二十体



 ◆



 二十日

 スキル『創剣』を手に入れた。魔力を消費して半透明な剣を作り出すことができる。これが強い。


 一日目に手に入れた長剣に限界が来てたから丁度いい。後腐れなく投擲できる武器なのもいい。苦労した甲斐があった。


 戦果

 雑魚 五十くらい

 幽霊騎士:『創剣』を持っていた魔物。めっちゃ強かった。どうやら人間のようにの概念があるようで、速くも力が強くもないが凶悪だった。この魔物から剣術を模倣できないだろうか。要検証。


 久しぶりに死にかけた。左腕を切り落とされ、右腕を囮にして噛み付いて殺した。

 一体



 ◆




(途中でミフネアイカのノートのページが無くなり、現地で拾ったのであろう紙に変わっている。インクも無くなったのか、コウヅキレイの血文字に変わる)




 ◆



 六十日目

 二ヶ月が経った。不安や恐怖を、感じない。多分俺は人間じゃなくなってしまったんだと思う。この日記を書いてる時だけは、「コウヅキレイ」であれる。


 この日記だけは続けていく。

 これを辞めた時が、俺が人間からバケモノに落ちてしまう時だ。


 戦果

 三桁手前。種類は考えるのをやめた




 ◆



 九十日目

 ふと目を閉じると昔のことばかり思い出す。自分がどれだけ恵まれていたのか思い知って、また吐きそうになる。でも、自分の言動を悔いる気持ちはなかった。愚かなことをしていたな、とは思うが、それで終わりだ。


 昔の自分と今の自分が、同じように思えないから。

 生き物を殺すだけのバケモノに成り下がろうとしている俺が、どうして日常を後悔できるんだろう。


 今日、これまでのとまた別格の魔物にあった。

 一言で言うならキメラ、様々な魔物の特徴を持っている。きっと、この場所で強くなろうとするとそうなるんだろう。相手を喰って、奪って強くなる。それの終着点が、あのキメラなのだろう。


 戦ってはない。

 今の俺だと、あれには絶対に勝てない。


 あれを倒せば、もっと強くなれるのか。何処まで強くなれば、俺はここから出られる?



 ◆



 百二十日目

 今日はずっと図書館に居た。図書館の黒い背表紙の本、ミフネアイカは触れるなと言っていたが、無効化することに成功した。呪い系の魔物を最近取り込んだのが効いたのかもしれない。


 その本は、ここで行われた儀式についてまとめられていた。

 ミフネアイカ、彼女の使った「蠱毒」という言葉はとても的を射ていたようだ。


 神様を呼ぶために、この国の奴らは蠱毒を行った。魔物を狭い檻の中に大量に閉じ込め、そうして最強になったその魔物を触媒にして神様を呼ぼうとしたのだ。


 けれど、失敗した。その魔物の力は強大すぎた。「蠱毒」の対象は国全体にまで広がってしまい、それによってこの地獄が生まれた。


 真相に近づいている気がする。

 ここを出たい。そのために、もっとここについて知る必要がある。



 ◆



 百八十日目

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