第9話 「流水文様 🌊 流れるままに」

「流水文様に込めたのは、流れに身を任せる柔らかさと、途切れぬ命の力。」 🌊


夏の盛り、照りつける日差しを逃れるように、村の子どもたちは川辺へと集まった。


川は、山から流れ出たばかりの清らかな水をたたえ、

浅瀬では小さな魚たちがキラリと光っていた。


「冷たーい!」

「待て待て、逃げるぞ!」


水しぶきと笑い声が、澄んだ空気に弾けた。

ひときわ大きな声をあげて走り回っているのは、タケルだった。


岸辺には、村の若い絵師・アヤが腰を下ろしていた。

手元の絵巻には、なめらかな曲線――流水文様が描かれている。


線は、途切れることなく、柔らかに、緩やかに。

ときに寄り添い、ときに広がりながら、どこまでも続いていく。


「ねぇ、アヤ姉ちゃん!」


タケルがずぶ濡れのまま駆け寄ってきた。

髪からは水滴がぽたぽたと落ちる。


「なんで、水って止まらないの?」


アヤは筆を止め、そっと笑った。


「水はね、止まることを知らないんだよ。

高いところから低いところへ、細い道を見つけながら、ずっとずっと流れていくの。」


「どこまで?」


「きっと、海まで。

海に着いたら、また空に昇って、雨になって――

また、流れてくる。」


タケルは不思議そうに空を見上げた。

まるで、見えない旅路を思い描くように。


「いいなぁ、水。自由で。」


アヤは微笑んだ。


「自由だけど、流れる先は、自分で選んでるんだよ。

どんなに障害があっても、ぐるっと回って、また前へ進むの。」


タケルは、川へ向かって大きく手を振った。


「ぼくも、流れるままに、進むよ!」


その声に、川の流れが一層きらめいたような気がした。


アヤは再び筆を走らせる。

白い絵巻の上に、涼やかな流水文様が広がっていった。

それはまるで、止まることを知らない命の歌のようだった。


夏の午後、川面を渡る風は、どこまでも涼しく、優しかった。🌊


📖【この話に登場した文様】

■ 流水文様(りゅうすいもんよう)


由来:流れる水の美しい曲線を図案化したもの


意味:絶え間ない流れ、命の連続、障害を乗り越える力

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