第3話 天より堕つる者たち
王宮大広間では、死闘が続いていた。
折れた石柱、裂けた錦の幕。
血と炎が交錯し、
あらゆる空気に、塵と死の匂いが充満していた。
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イレイン・オースティン——
セレス王国の叛乱軍指導者は、
血に濡れた剣を振るい、
王座の前で、
アルベルト・カサノヴァ大将と激しく刃を交えていた。
火花が飛び散り、
剣閃が暴風のように降り注ぐ。
それは力と意志の激突。
都市の運命が絡み合う、最後の審判だった。
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蒼穹会の戦士たちは王宮各所に突入し、
回廊、主広間、側門を次々に制圧していた。
王宮守衛軍はほぼ壊滅。
勝利は——
手を伸ばせば届くところにあった。
カサノヴァを討ち取れば、
アカディアの鉄鎖は完全に断ち切られる。
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イレインはカサノヴァの攻勢を抑え込み、
強烈な蹴りを叩き込んだ。
大将の巨体が地面に叩きつけられる。
剣尖をカサノヴァの喉元に突きつけ、
荒い呼吸の中、
冷酷な炎を宿した瞳で叫ぶ。
「降伏しろ。」
「アカディアは、もうヘリオスのものじゃない!」
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カサノヴァは仰向けのままイレインを見上げ、
口元に奇妙な笑みを浮かべた。
絶望はない。
そこにあるのは、不気味なほどの余裕だった。
彼は低く、
四文字を吐き捨てた。
「……遅すぎた。」
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轟音!
次の瞬間——
王宮の天井が炸裂した。
厚い天蓋が強引に引き裂かれ、
瓦礫と金属片が雨のように降り注ぐ!
眩い白光の柱が天から突き刺さり、
硝煙に包まれた大広間を貫いた。
続いて——
十二の銀白の影が、流星のごとく舞い降りた!
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彼らは銀白の戦術強化装甲をまとい、
まるで冷厳な神像のような姿。
背には軽量推進翼、
手には蒼く輝くブレードと磁軌ライフルを構える。
一挙手一投足が完璧で、
着地と同時に大理石の床を砕いた。
ヘリオス連邦が誇る最強の鎮圧特別部隊——
【天神連】
コードネーム:【Dominus Dei(神の支配)】
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天神連——
それは連邦が密かに温存していた最後の切り札。
叛乱を抹消し、自由を粉砕するためだけに存在する。
彼らはもはや通常戦闘の枠を超えた、
純粋な戦争神罰だった。
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「叛乱源、排除。」
隊長格の銀甲戦士が、冷酷に宣告した。
その声は戦術拡声器を通じ、
大広間の隅々まで轟き渡った。
短く、冷たく、
まるで死刑宣告のようだった。
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次いで、
虐殺が始まった。
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【天神連】は二手に分かれて展開し、
一射一撃、すべてが完璧に精密だった。
まるで外科手術のように、
蒼穹会の防衛線を切り裂いていく。
火器も剣も盾も、
磁軌弾と推進斬撃の前では、
ただの紙くずだった。
蒼穹会の戦士たちは勇敢に抗ったが、
弾丸も斧も剣も——
天神連の複合強化アーマーにはほとんど通じなかった。
銃弾は弾かれ、
剣は関節部すら傷つけられず、
近づけば高周波刃で肉体ごと蒸発させられる。
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カル・フォン・グランは剣で第一波を辛うじて防ぎ、
怒声と共に反撃を命じた。
「指揮官を守れ!退路を確保しろ!」
だが——
兵は少なすぎた。
武器はあまりにも時代遅れだった。
連邦の天神連に抗うには、
勇気だけではどうにもならなかった。
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イレインは歯を食いしばり、
剣を握り直し、
天神連突撃隊の中央へ向かって突き進んだ。
逃げられない。
退けない。
ここでカサノヴァを逃せば——
アカディアは、永遠に鉄鎖に繋がれる。
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彼は激しく地を蹴り、
倒れたカサノヴァ目がけて剣を突き立てた。
怒雷のごとき一撃!
だが——
白光が閃く。
轟!
イレインは信じられない衝撃で吹き飛ばされ、
折れた柱に激突した。
口から血を吐き、
崩れ落ちる。
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そこに立っていたのは、天神連。
一人の銀甲戦士が、
カサノヴァの前に立ちはだかり、
推進盾でイレインの致命打を軽々と弾き飛ばしたのだった。
冷たい仮面の下、
光学センサーが冷徹にイレインを捕捉していた。
まるで、
取るに足らぬ虫を見下すかのように。
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カサノヴァは立ち上がり、
身についた埃と血を払い落とした。
悠然とイレインの前に歩み寄り、
もがきながら立ち上がろうとする彼を見下ろす。
その口から、冷たく嘲る言葉が吐き出された。
「お前たちが……
アカディアを取り戻せるとでも思ったか?」
「最初の石を積んだその瞬間から——
ここは連邦の檻だったのだ。」
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イレインは立ち上がろうともがいた。
だが天神連の戦士が、
無慈悲にその胸を踏みつけた。
彼は血の海に押さえつけられ、
剣は転がり落ちた。
王宮の大広間には、
血と塵が舞い、
倒れたセレスの戦旗が柱に寄りかかっていた。
誓いは風に流れ、
希望の火は、
天神連の銀白の甲冑に踏み潰された。
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そして高空には——
さらに多くの連邦戦艦が、雲を突き破って現れた。
潮のようにアカディア上空を埋め尽くしていく。
この夜、アカディアは、
完全に陥落した。
もはや希望の象徴ではない。
鉄鎖に縛られた、
哀れな牢獄に過ぎなかった。
冷たい鉄靴が、
若き将軍の夢を——
この国の最後の尊厳を——
無惨に踏み潰した。
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