Episode 036 そして、作品の向こうに。
――物語は続く。現実とはパラレルな世界の中、僕は今そこにいる。
体育館を海に見立てた舞台の上で敗北を受け、セゾン号の復旧と共に改造も進められていた。そこは場所を変えて、まるで鉄工所みたいな工場。不気味な黒煙を吐き出しつつ。
博士を扮する
今はまだ極秘裏の、アーマード・セゾンの計画を推進していた。まるでユニホームの上にジャージを着た、その様なイメージ。それだけでも重厚感があり、強化された感じだ。
アーマードは紺の装甲。ミサイルポットを完備している。
それで敵を威嚇し、パスで繋いでいくチームワークを第一に考えた作戦だ。
そしてそれは、僕の願望。……そうとも思える感情が滲んでいた。そんな中だ、コツコツと近づいてきた。今は体育館の片隅。アンの練習を見守る傍らで、そっと描いていた。
視線は傍にあった。
気配など感じさせずに、でも、鋭い眼差しだった。
描いているのはリンダだけど、その中に僕がいる。
そして今、紅初子が見ているものは、まさにリンダの身体を借りて描いている漫画。更に言うなら、リンダは眠りの中。彼女の身体を動かしているのは僕自身だった。
しかも、かつて
ここで謎解き。僕はあの頃から、今の作品に辿り着いたのだ。つまり物語は続いているのだから、紅初子の視線が何を語るのかは、薄々ながらだけど感じ取っていた。
でも外観は僕でなく、あくまでリンダ。
「素敵な作品ね、ちょっと読ましてもらっていいかな?」
と、紅初子は言う。その距離は近くて、僕は鼓動が高まるのを感じた。
パラパラと紙の音。彼女の息遣いも聞こえてくる。
パラ……そして想い出が繰り返すように読み返している? 読み返している。間違
いなく読み返していて……え、何? 彼女の目に涙が輝いていた。
僕は、どう声を掛けたらいいのか。そう思っているうちに、
「
「そこにいるのね、君」
と、確かに彼女はそう言ったのだ。
――何でわかった?
すると、ポロポロと、彼女は涙を零して……
グイッと引力で引き付けられるように、僕を、あ、いや、あくまでリンダの身体を抱いた。ギュッと力強く抱きしめたのだ。耳元で「もう何処にも行かないで」と囁きも……
溢れる僕の感情。
壊れそうな程に。
でも、僕の姿はもうない。この姿は、あくまでリンダだから。
「ごめん……」
と、その言葉は漏れる。自分に嘘はつけないから。僕としての僕は、もうこの世にいないのだから。紅初子から見た僕は、もう自ら命を絶った生徒だった人間なのだから……
その記憶の影に隠れているもの。
なら、あのナイフは何だった? キラリと光って、僕の腹部を刺したあのナイフは?
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