Episode 034 だけど、今度だけは……


 ――体育館の空気は熱を帯び、試合の激しさが光を反射してキラキラと煌めいていた。



 僕はリンダの目を通して、この舞台を海に置き換える。モーターボートが人型ロボットに可変するセゾン号。その乗組員は、今まさに試合に挑む面々。茂者もじゃやアンを含む五人の仲間。そして相手チームは青と黄色の機体が印象的……


 相手チームの名は、ジプシーの異名。


 空をイメージした飛行機型。それが人型ロボットに可変した。


 ジプシーの異名の機体もセゾン号と似通った部分を持っているけど、特徴的なのはその圧倒的なスピード。セゾン号のダッシュ機能を凌駕し、アンが操る最速の機体さえも軽々と追い抜く性能を持つ。


「アン、冷静になって」


 茂者の声が通信越しに響くけど、アンの焦る手は操作盤を激しく叩き続ける。彼女の心に渦巻く焦りが機体の鼓動となり、周囲の音を掻き消してしまっていた。通信の声も今の彼女には届かなかった。


 荒々しい動きを見せるアンの機体。その隙を突くように、ジプシーの異名の青と黄色の機体が一瞬の間に懐へと入り込む。次の瞬間、輝くビームブレイドが、アンの機体の胴体を貫き、深い爆音が体育館内を包んだ。


 アンの機体は膝を着き、そのモノアイからは光が消えた。装甲の一部が剥がれ落ち、黒煙が静かに舞い上がった。操作盤に手を置いたまま、アンは動けない。ただその瞬間を受け止めるしかなかった。


 観客席から漏れる溜息と騒めき。静寂の中で茂者たちの声が遠く響くけど、試合の結果はもう明白だった。ジプシーの異名の機体がビームブレイドを振り翳す。その動作が、まさにセゾンチームの敗北。そしてイメージの中で流れるBGMと共に、相手チームの勝利の余韻を、海に置き換えた体育館内に刻み込むかのようだった。



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