Episode 033 そして、九月のスタート。


 ――九月の始まりの朝は、柔らかな陽射しが教室に差し込んでいた。



 そっと包み込むような、そんな感じの明るい色。


 リンダは少し緊張しながら席に着いた。ちょっとでも和らいだのかな? 彼女にとっては初めての登校日。僕、は彼女の脳内に住む旧号きゅうごう。そっと彼女を見守っている。


 静かに扉が開く。この教室の扉……


 ここは特別な学級。リンダの席の後ろには、彼女のお姉さん的存在のアンがいる。ということ同級生? リンダは十二歳。年齢的に中学一年生なのだけど、アンは十五歳の筈だけど……ここで新事実が発覚したのだ。彼女もまた中学一年生だった。


 実は聞き間違いで、十三歳だった……


 驚愕の域だ。僕より大人びて見えたものだから……『だから言ってたでしょ、アンさんは私と半年違いだって』と、リンダが付け加えた。そう。僕の只の思い込みだった。


 それはそうと今、教室の扉は開いたのだけど、その瞬間……


 サーッと音を立てながら、ヒンヤリとした風の流れを感じた。


 それは黄色の法被から白衣に変わったこと。それから冷たくなった瞳。少なくとも僕には、そう見えたから。そう、僕らの担任の先生が入室したのだ。


 すると、


「先生、白衣着てる! 博士みたい!」


 と、リンダの驚きの声が響いた。その直後、一瞬は沈黙になったものの、クスッという笑い声と共に、くれない初子はつこの表情が和らいで「そう呼ばれるのも悪くないわね」と答えた。


 黒板に『創作』と書く、彼女の手元に、ここにいる面々の視線が集まった。


 僕はリンダに話しかける……


『先生の瞳に漂う悲しみが解るかい? それは僕に関係してる』


『だったら、博士に何があったか知りたい。どうしたら助けてあげられるかな?』



 放課後、僅かな時間だったけど、僕らは……いや、見た感じはリンダが体育難に足を運んだ。紅初子はバスケットボールの顧問として、そこにいる。そんな物静かな感じを掻き消すかのように、アンや茂者もじゃたちの声がこだましていた。そんな中……


『リンダ、彼女の心に、まだ僕を失った悲しみが残ってる』


 僕は、そうリンダに言っていた。


 その夜、リンダは窓から星空を眺めていた。彼女の瞳を通して、僕もまたその景色を見詰める。『博士の心に触れる方法を探したい。新たな学期が始まったからこそ、できることがある筈だね』――僕らは静かに、創作の道を進み始めた。



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