Episode 031 そして、集えし勇者たち。


 ――そこは輝きに満ちた世界。体育館を舞台に、白熱した試合が繰り広げられている。



 茂者もじゃが率いるセゾンチームと、南から訪れた強豪チームが、一瞬の油断も許されない攻防を繰り広げる。選手たちは汗を飛ばしながらボールを追い、観客席からは歓声と握手が絶えない。飛び上がる選手のシルエットが、体育館のライトに映える。


 緊張感は、まるで肌で感じられる程だ。


 試合はバスケットボールなのだけれど、僕にはそれが、海上で繰り広げられるリアルロボットの攻防戦に見えていた。その瞬間、もう創作は始まっていたのだ。リンダも、それに同意している。


 厳粛で、重厚感のある『掟』


 僕とリンダの間で交わされた契約。それに基づき、僕たちは共同作業を行っている。


 良き相棒であること。そして、お互いの壁を乗り越えるために……


 漫画という創作が僕らの入口。そこから先に広がるものは、ドラマやアニメのような映像。リンダの脳内では、そんな無限の可能性が描かれているようだった。彼女の創作は果てしなく広がっている……


 だからこそ、それを実現できる装備を整えようとしていたのか?


 彼女の部屋に飾られている多種多様な機材。音楽の領域から絵画、さらに僕が知らないような風景写真まで、その広がりは驚くべきものだった。


 思えば、この時代の機材はアナログが主流だった。


 ユーチューブなど、まだ存在しない未知の世界だ。


 もしもこの時代に、それらの設備があったなら、リンダは間違いなく、その世界に没頭していただろう……とはいえ、それはこの時代には知り得ないことだった。


『へえ、旧号きゅうごうって未来が見えるんだね』


『へ?』『……でも、その未来には程遠いね、時間は限られてるから』


 と、寂しげにリンダは呟いた。心の声は、僕にはハッキリと聞こえた。


 でも、どうして? という問いかけを、今の僕はすることができなかった……



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