Episode 030 そして、灯台になれたら。


 ――リンダは光の灯台。希望に満ち溢れ、遠くを照らす存在だ。それに比べて僕はどうだろう? 諦めの上で成り立っている自分。その違いを突き付けられているようだった。



 ――そんなことない!



 電撃が走るようなリンダの声。まるで雷が鳴り響くような衝撃。


『旧号がいてくれるから、私は創作が好きになったの。それまでは、ただただ眺めているだけ。窓から見える世界を……』


 彼女の声を聞きながら、その言葉を発した彼女の表情が、手に取るようにわかる。


 でも、その表情の奥深い意味までは知ることができなかった。そこだけが靄がかかったように見えない。――まるで記憶の断片が欠落しているかのように。


 その瞬間、サーッと冷たい空気が、足元から上へと通り抜けていった。


『それは君だって同じだよ』


 と、リンダが静かに呟く。


『私は気がついたら病室にいた。それからずっと、行ったり来たりの生活だったの。やっと学校に通えるようになった時、私はトキメキを感じた。きっと、私にとって学校に行くこと自体が初めてなんだと思う……』


 リンダが語るその言葉。初めて聞く内容だった。


 僕はリンダの脳内にいる筈なのに、彼女の記憶の一部だけが見えない。それはまるで鍵がかかったような空白。――特に幼少期、彼女が五歳くらいの頃。


 それは僕が小学三年生の後期の頃に似ている……


 そこから急変した。


 言葉が浮かばなくなり、それがずっと続いた。


 そう、生前の僕にとって、それは決して消えない影だった。


 でも今はどうだろう?


 僕らは今日も一緒に描いている。リンダの光を頼りに、今という時間を紡ぎながら。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る