Episode 029 そして、出会いは再会に。


 ――リンダにとっては出会い。


 彼女の脳内に住んでいる僕にとっては再会。それは、くれない初子はつこに絞られた。



 大人たちの話し合いが進められる。僕らには手の届かない内容だ。話の続きは編入手続き。応接セットの黒いシートの椅子に座りながら、その会話を眺めるだけだった。リンダに関わる重要な内容だけど、僕には関与する余地はない。


 夏休みが終わったら、彼女はこの学校に通う。そして担任も既に決まっていた。



 ――紅初子ことハッピー先生が、彼女の担任になるようだ。


 新学期が始まったら、また彼女と顔を合せることになる。それは僕にとって再会のようでいて、再会とは言えない再会だった。


 紅初子は僕の存在に気付かない。僕はリンダの脳内にいるだけで、外観はあくまでリンダ。別人としてしか見えないのだから。


 その事実を思い知らされた途端、わかっていた筈なのに、胸が締め付けられるような悲しみが込み上げてきた。けれども、僕は堪えた。涙を誘いそうな感情を押し込める。


 それはリンダの門出を祝福しなければならない瞬間だから。僕と違って、彼女は前に進んでいる。その足跡を汚してはいけないのだ。



旧号きゅうごう、元気になってもらいたいんでしょ?』


 と、リンダが突然尋ねた。その声は僕の心を揺さぶる。


『僕はもう、何もできないから……』


『嘘、君はまだ終わっちゃいない。ヒシヒシと伝わってくるんだよ、君の気持ち。先生との約束、まだ果たしてないんでしょ』


 驚きというよりも、ジワリと温かいものを感じた。


 まるでソフトなバスタオルで包まれたような安心感が心に広がる。そしてリンダは言葉を添える。――それはまるで花冠をそっと被せるように優しく。


『君の作品、完結させよう。私が君の手をなって描くから』


 その一言が、あの日の記憶を呼び起こす。夏の雨の中で交わした約束。赤裸々な想いが絡み合う中で僕が誓ったこと。――ハッピー先生の瞳に輝きを取り戻したいという願い。


 それを果たす日が来るのだろうか。



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