Episode 020 航海の始まりは公開へと。


 ――ノートに夢を描いた内容は、今まさにケント紙に描かれ、Gペンを用いている。



 描いているのはリンダだけど……


『君がイメージしてくれたからだよ。私は君のイメージ通りに描いただけだから』


 と、語りかけてきた。いつもとは違った、少し寂しそうな声。


『……絵、上手だね。それGペン?』


『ううん、丸ペン。繊細な部分が多かったから。それもまた、君のイメージだね』


 多くは語らなかった。


 僕は探ることにした。彼女が何に興味があるのか? あの日に見た白い微笑には希望がいっぱいのように思えたけど、今この瞬間はどうだろう? ちょっとした翳りを感じた。


 ――すると、


『君は、ずっといてくれるよね?』と、呟きに近い、心の声が漏れているのが聞こえた。


『君さえよければ……と言いたいところだけど、僕自身がどうなるかわからない』


 そうなのだ。僕は自身の意志とは関係なく、今リンダの脳内にいる。


 もしかしたらこの先、僕には選択肢がないのかもしれない。明日にはスッと消えてしまうのかもしれない。状況を思えば、いつそうなっても不思議ではない。


 僕の肉体は、もう存在しない……と思うから。


 それに、星野ほしの旧一もとかずという固有名詞も、もう過去のものだと思うから。


 ただリンダの中に、恐らくだけど……僕の魂が入っている。魂だけの存在。漫画を描くのもリンダがいなかったら、実現できなかった。


 ――だから、


『僕はギリギリまで描き続ける。それが君の思い出の一ページになったら……』


 と、上手くは言えないけれど、そっと寄り添う言葉。ポツリ……と、涙の雫。


 初めて見る、彼女の涙だった。


 けれども、僕にはまだ、その涙の意味は解らなかった。



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