Episode 012 それは、教室の四角い窓。


 ――仕返しされる程の怒り? いや、それとも異なる種類の薄ら笑い。



 僕が万引きする前に逃げたことで、因果応報の時がやってきたと思われたけど、金山かなやま君を始めとする五人組は、いじめという火遊びを楽しんでいるかのように見えた。


 特にその中の女子は、まるで僕を観察することに興味があるように思われた。


 この日は夏休みの途中にある登校日だった。毎年恒例の学校行事がある日だ。僕はそのことを忘れていた。……いや、本当は忘れようとしていたのだろう。目の前のことしか考えられずにいたのだから。


 夏休みが終われば、僕の毎日は想像もつかないものになるだろう。


 教室は暑さが盛りを迎えていた。僕はそこに晒されている。散らばった衣服は床に落ちて、四角い窓から差し込む日差しが、午前から午後へ移りゆく中で、僕の肌を照らした。


 冷静に考えれば、僕らの年頃は異性に興味を抱くことが自然だとわかる。でも、その真ん中にいる僕には、それどころでは現実が襲いかかっていた。自尊心さえも踏みにじられる痛みが、押し寄せる波のように僕を飲み込んでゆく。


 周りの視線や行動が鋭く、僕の心の奥底にまで届くように感じられる。その日々が、まるで出口のない迷路のように僕を取り囲んでいた。


 今日は八月六日。広島に原爆が投下された日。


 学校行事では、その出来事を描いた映画を鑑賞した。


 平和への思いが胸の中で広がり、夏休みの終わりが迫るにつれ、どこか恐怖の感覚が増していくのを感じていた。


 その日、どうやって帰ったのかも覚えていない程、心は乱れていた。


 水浸しになった衣服。裸のまま……自身の白い肌に刻まれた痛みを見詰める。心の深い場所で思う。――やっぱり僕は皆と違うのだろうか。関わることで傷つく日々が続く。僕の存在そのものが、もしかしたら周りを傷つけているのかもしれないと感じる。


 それでも机に向かう。描き続ける漫画の中で、僅かな救いを探しながら……



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