Episode 010 それは、星降る街角へと。


 ……僕は、パクらなかった。


 万引きは、しなかったのだ。



 該当するデパートの前から、僕は消えるようにして逃げ出した。


 駆け足は、それほど速くないけど、充分に距離を取って、追いかけてきた金山かなやま君たちを無事に撒くことができた。そのまま走り続け、できるだけ遠くへ。


「くそ、待ちやがれ!」


 その怒鳴り声は耳に残っていたけど、心は青空のようにスッキリしていた。


 明日から夏休み――もう彼らと顔を合わせることはない。


 先のことは、あまり考えないようにすれば、楽しいことばかり。


 見慣れている筈の景色が新鮮に見えて、向日葵ひまわりの美しさにも心が躍る。震える足取りもスキップに変わっていた。これが自由というものだろうか?


 素敵な夏休みの予感しかない。


 同じ地域にいるハッピー先生のことも思い浮かぶ。先生には顔向けできそうだし、お宅に遊びに行って、また人生ゲームをしたいとも思える。


 そんなことを思いながら、角に差し掛かったその時。


 曲がり角。僕の名字が『星野ほしの』だから『星降る街角』とでも呼びたいところだ。そこで激突した。まるで流星と流星が正面衝突したみたいに……


 目の前、火花が散った。


 僕は尻餅を着いて、ぶつかった相手はその場に倒れ込んでいた。


「大丈夫?」


 漸く僕は声を発した。


 相手は女の子。白と青のマリンルックに身を包み、靡く栗色の髪。それからスカートをサッと直した。……因みに、そこは白色だった。スカートから見えた部分。


 そして彼女の青い瞳がジッと僕を見詰めた。僕もまた驚いていた。まさか現実に……



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