Episode 007 それは、肌色の触れ合い。


 ――夏の日のこと。地域の活動にハッピー先生が参加するという話を聞いた。



 普段なら、こういった活動には僕は参加しない。だけど、ハッピー先生が同じ地域に住んでいることを知り、少し興味が湧いた。越してきてから一年近く経つのに、それを知ったのはつい最近。お父さんが教えてくれて、親睦を深めるために参加するよう促された。



 その活動は、遠足が大人になってハイキングという名前になったもの。


 その目的地は、アスレチックパーク。遊具が満載で、少しワクワクしていた。


 道中、ハッピー先生は僕の横を歩いていた。普段の学校で見る彼女の姿とは違い、白と青を基調とした軽装は新鮮だった。しなやかな脹脛ふくらはぎは、まるで今話題のロボットアニメのプラモデルみたいだった。僕はつい見入ってしまった。


「そっか、旧号きゅうごうも男の子だもんね……」


 彼女は笑いながら僕を見詰めた。その言葉は、木漏れ日に溶け込むように響き、とても穏やかな時間だった。草木の匂い、川が流れる音……ここから川は近いようだ。


 けれど、穏やかさは長く続かなかった。


 突然、雨が降り出し、勢いを増して激しい雷鳴がとどろき渡った。


「あ、ああ……」


 普段は右目を隠している彼女が、この時は両目を大粒の涙で濡らし、崩れるようにしてしゃがみ込んでいた。震えている彼女を見て、僕は悟った。


 ――ハッピー先生の弱点。それは雷だった。


 僕は彼女の手を取った。雨が視界を遮る中、必死に走った。


 雷が追いつけないように、滑りやすい足元に気をつけながら。ただ、その先には濁流だくりゅうが広がっていて、気をつけていたにも拘らずに、僕たちは身を投じてしまった。



 ……ポタリ。


 …………ポタリと落ちる滴る水の音。


 気がつけば、僕たちは屋根のある場所にいた。


 濡れて冷えた彼女の身体を温めるため、僕は彼女の肌に触れた。体温を分け合うことで彼女を助けられると思ったから。


 目を覚ました彼女は僕を見詰め、こう言った。


「旧号、あのさ……それ雪山の遭難した時の対処法だと思うけど?」


 と、少し鋭い目つきで……



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