Episode 006 それは、桃色の世界観へ。


 ――嵐の予感は的中した。聞き間違いではなかった。


 状況は更に悪化した。柴田しばた君は何かにつけて僕に暴力を振るうようになった。



 休み時間――それは魔の時間となることが殆どで、プロレスごっこと称して彼は僕を攻撃し、周りははやし立てていた……


 何故こんなことになったのだろう? 僕は、柴田君に酷いことをしたのだろうか?


 何が悪いのか今もわからない。


 誰のせいなのかもわからない。


 僕の視野には、もう彼しか映らなかった。くれない初子はつこ――ハッピー先生の存在さえも、暗い闇によって遮られていた。……そんなある日のことだ。


 彼によって、僕は自身の机に背中を打ちつけられた。


 またしてもプロレスごっこの結果だった。机は倒れ、その中からノートが散乱し、僕の『マル秘ノート』までもが、雪崩なだれ出た。


 間髪入れずに柴田君は、そのノートを拾い上げ、ページを捲り始めた。ペラペラと音を立てながら、黙々と中身に目を通していった。


 ――そして、


「おい、この続きはないのか?」と、彼は尋ねてきた。


 驚きで頭が真っ白になった。


 まさか彼が、僕のノートに興味を持つとは。そのノートには、僕が描いた漫画が収められていた。きっと世界に一つだけのオリジナル作品だったと思う。


 柴田君は真剣に黙読し、フッと口元に微笑みを浮かべた。その笑みを保ちながら、


「じゃあ、続き、楽しみにしてるからな」


 と、その一言を残し、彼は転校することになった。急な家の都合だったらしい。本当に突然だった。


「もうこれで柴田にいじめられなくなって嬉しいだろう」


 と、クラスの男子は揃いも揃って言った。でも、僕の気持ちは複雑だった。


 喧嘩することで、お互いの思いを曝け出す。そんな関係が漫画の中でよく描かれる場面だったのに、僕はそれを現実で、理解するまで時間がかかった。


 そうなのだ。僕の創作は、漫画から始まった。――マル秘ノートに描いた漫画。鉛筆で綴った物語風の落書き。それが僕の原点だった……



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