Episode 004 それは、緑色のバッタで。
――視野が広がり、少しは教室にいる面々が見えてきた。
それでもまだ、名前も覚えるにも関心も持てず。
そんな面々よりも、僕の脳内には
支配されていた? これまでに感じたことのない感情。
――緊張に似た何か。言葉にするのが難しかった。……いやそれ以前に、僕は語彙の少なさに悩んでいた。会話が成立しない。何も話せない。それは真っ白な状態に等しく、時にはパニックに近い感覚だった。
休憩時間に周りの生徒達が楽しそうに会話する声を聞く度、それが偉大なもののように思えた。彼らは会話のペースを自然と合わせている。その能力に尽きるのだと思えた。
ふと窓の外を見た。
僕の席から窓は、すぐ傍にあり、そこから見えるものは青々とした秋の緑。
その景色に思い浮かぶのは、彼女が僕につけたニックネーム。そうなのだ。
――
これこそ、彼女が僕に授けたニックネームだった。緑の中を駆けるバッタをモチーフにしたヒーローが彼女の憧れ。――それが僕へのニックネームに込められた思いだった。
そして、彼女にもニックネームがあった。
この教室の面々から「ハッピー先生」と呼ばれている。
彼女のスタイルは、まるで野球の聖地に足を踏み入れた応援者のようだった。
でも僕は、彼女を「ハッピー先生」と呼ぶことはなかった。
何故なら、僕はもう、いじめの標的になっていたから。この教室の面々の……
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