Episode 002 それは、橙の陽気の中で。


 ――午後三時、駄菓子だがし屋さんの入口を潜ると、甘い香りと共に雑誌が目に飛び込んできた。古びた店内の棚を眺めると、そこにはお気に入りの新刊が飾られていた。



 手に取りパラパラとページをめくる。活き活きと描かれた同年代の主人公たちが織り成す等身大の学園ドラマに、心が躍った。


 坊ちゃんカットで、黄色のトレーナーに紺の半ズボン。


 ――それは、僕と同じスタイルだった。でも、射撃に綾取あやとりは、その漫画の主人公の得意技。それだけで彼は偉大に見えた。僕には特技なんてない……


 それでも、僕には唯一の願いがあった。


 それはオリジナルの一冊を創作すること。世界で一つの物語を。


 どんな形で?


 それは……上手くない絵と、上手くない文章で綴るものかもしれない。


 でも、僕はどうしてもそれを表現したかった。


 まだ自己紹介もしてなかったね。


 ――星野ほしの旧一もとかず。それが、僕の名前。


 我ながら変わった名前だと思う。『旧一』と書いて『もとかず』と読む。『原点』という意味だと、お父さんが教えてくれた。だからこそ、これが物語の始まりだ。


 始まりは昭和五十四年。


 今みたいなだいだい色の陽気に包まれる秋。そこから僕の日常は大きく変わり始めた。


 皆とどこか違う僕。一人でいる方が気楽だった。でも、お父さんのお仕事の関係で知り合った男の子のお家に泊まる時だけは、特別で、少し違う時間が流れていた。


 その男の名前はあつし。僕は「あっちゃん」と呼んでいた。


 この頃覚えたものはプラモデル。映画化され、社会現象にまで発展したロボットアニメのプラモデルだった。それは後に『バンプラ』と呼ばれるもの。


 作ることの楽しさを知り、そこから僕の創作の旅が始まっていった。

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