文華
声兎
文華
小説や詩を書くことは
自分を肥大させること
経験したことないことを
自分の知らない感覚を
いかにも体験したように書き上げる
それがどんなことであっても
楽しそうに僕の文を読んで、笑みを浮かべる彼女
僕の文を褒めてくれる彼女
恋愛ものを書くと、自分ごとのようにはしゃぐ彼女
僕の文が彼女を幸せにする
それ以上に僕が幸せになる
最近彼女も文を書き始めた
自分が利用している投稿サイトで
彼女の文は妖精のように
艷やかで、綺麗な文体
彼女の書く文が僕の琴線を激しく揺らす
羽毛布団のように心地よければ
水中にいるかのように深く沈んでいく感覚になる
投稿サイトでお互いの気持ちをぶつけ合う
好きだの、愛してるだの惚気たものばっか
別にLINE済む話なのに
彼女の文を読めば読むほど
彼女との思い出が鮮明によみがえる
文を書こうとすると
彼女が僕を見ていると思って、変に意識する
まるで彼女に恋文を書くかのように
何度も何度も書き直して
今まで書いてきた文体が、どんどん変化していく
今までと同じように文を書いているはずなのに
彼女への思いを伝えようと
試行錯誤をする自分がいる
もはや小説ではない気がしてきた
そうと気づいていてもやめられない
恥ずかしいほどやめられない
想いが言葉のアイディアを膨らませる
それと同時に会いたいと思う気持ちも膨らむ
画面の向こう側にいる彼女に会いたい
抱きしめたい
キスをしたい
でも彼女は遠くにいる
彼女が綴る一文字一文字が僕を包んでいく
だから、僕の綴る一文字一文字で抱きしめたい、愛しているから
─完─
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