【PV 141 回】『虫偏の記憶帖 ―陸と海と夢の章―』

Algo Lighter アルゴライター

陸の章

第1話 蚯蚓 『土の下から』

春の朝。

畑の隅で、少女はしゃがみこんでいた。


土はまだ冷たく、手のひらにひんやりとした感触を伝えてくる。

指先でそっと崩すと、湿った土の匂いがふわりと立ちのぼった。


今日も、ひとりだった。


転校してきたばかりの学校。

教室のざわめきの中で、

自分の声だけがどこにも届かない気がしていた。


ふいに、土の隙間で何かが動いた。


「……?」


目をこらすと、にょろりと、

細長く、薄紅色の生き物が現れた。


──みみず。

英語では、Earthworm。

地球の虫と呼ばれる、小さな大地の使者。


少女は夢中で見つめた。

小さな体で、静かに、力強く、土を耕しながら進んでいく。


誰に見られることもなく、

誰に誉められることもない。

けれど、この小さな存在が、

土を豊かにし、世界を支えている。


少女は、そっと息をのんだ。


──わたしも、こんなふうに。


目立たなくてもいい。

誰にも気づかれなくてもいい。

静かに、しっかりと、

自分の場所を、耕していけたら。


朝の光が、畑に降りそそぐ。


少女は立ち上がり、手についた土をそっと払った。

足元では、蚯蚓がゆっくりと、

土の下へ帰っていった。


──


蚯蚓(Earthworm)。

土の奥深くで、大地を育むもの。

わたしもまた、静かに、根を張り、未来を耕していく。

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