第17話 りんご飴と秘策

 レンゲの言う通り一キロ走った先にはリンゴの木が五本もあり、実が熟しているようだった。


 ゴンは知らなかった……


『ええ〜? この世界のリンゴってこんなにカラフルなんだ!? 赤、緑、黄、白、青ってどれが熟してるのか分からないぞ』


「着きましたね、ゴンの兄貴」


「どうですか、ゴンの兄貴。私の見立てだと全ての実がちょうど食べ頃を迎えていますけど」


 ヒックに降ろして貰って内心でリンゴの色に驚いていたらレンゲが全てが熟していると教えてくれた。ゴンは職を意識してリンゴの実を見た。


「ほ、ホントだね。レンゲさんの言う通り実は全て熟してるよ『違和感が半端ないけどこれはこれで面白いのかもね』」


 五本の木になっているリンゴの数は目算で三百個ほど。そこでレンゲが食材ハンターのスキルを見せてくれた。


「完熟リンゴのみ! 収納!!」


 レンゲがそう言うと一本の木から実がゴソッと消えた。残っているのは五個ぐらいである。


「これ、オレンジにも使えるんです。でもクレイやローパーは出来ないらしくて。どうですか、ゴンの兄貴?」


「すごいね、レンゲさん。あれ、それじゃアリ糖もそのスキルで採取できるんじゃ?」


 ゴンがそう言うとレンゲは首を横に振った。


「それが、私のこのスキルはどうも木の実限定みたいなんです」


「そうなんですね、それでも凄いです。レンゲさんには木の実担当でお願いしようと思います。クレイさんとローパーさんはアリ糖採取をお願い出来ますか」


「はい、ゴンの兄貴! 任せて下さい!!」


 となると買取価格を決めないといけない。ゴンはそれらを計算する。

 アリ糖は綿菓子一つ作るのに約二十グラムを使用する。それを小銅貨一枚(百円)で販売するのだ。アリ糖一キロで出来る綿菓子の個数は約五十個。小銅貨五十枚(五千円)の売上である。

 一キロを小銅貨五枚(五百円)で買取りしても四十五枚の粗利がある。売り子さんとメンテナンス要員に支払う分を計算するゴン。売り子には売上の七割、つまり小銅貨三十五枚(三千五百円)。メンテナンス要員には小銅貨八枚(八百円)。

 これでゴンの手元にはアリ糖一キロに対して小銅貨二枚(二百円)が残る計算となる。


 リンゴ飴は綿菓子より高めの小銅貨二枚(二百円)で売るつもりである。

 リンゴとアリ糖を使用するのでその値段である。レンゲにゴンは食材ギルドの買取価格を聞いてみた。


「リンゴですか? 十個で小銅貨三枚です」


『となると一個三十円になるのか。リンゴだけを考えると粗利が百七十円になる。レンゲさんにはこれからも活躍して貰わないとダメだから…… 十個小銅貨五枚で買い取ろう。これで一個当たり百五十円の粗利になる』


「十個で小銅貨五枚で買取りしますね、レンゲさん」


 レンゲにそう伝えてまた頭の中で計算をするゴン。アリ糖はそれほど多く必要ないので買取り価格から原価を計算し、リンゴ飴ならゴンの手元に一個当たり七十円が粗利となる計算だ。十個売れれば小銅貨七枚の粗利となる。

 ゴンとしてはリンゴ飴はもっと売れると思っているので粗利としては十分だろう。


 粗利で得た額の半分はナーノに渡すつもりだ。 


 戻ったらナーノにリンゴ飴用の屋台をお願いしないとと考えながらゴンは新たな商売も考えている。


 それは以前にスーバから指摘されていた肉串や飲み物を作って売っている屋台との共存についてだった。例えば肉串の屋台では串に三個肉を刺して小銅貨三枚で売っているのだが、ゴンは串に四個刺して貰い小銅貨五枚で売って貰えればと思っている。


 勿論だが値上げして貰う為の秘策もある。


 幸いにして肉串の屋台夫婦も飲み物屋台のお姉さんもゴンとナーノがライヤ食堂とコーシュの宿屋の子だと知っていて、いつも優しく接してくれている。


 秘策とは肉串の屋台夫婦には秘伝のタレを、飲み物屋台のお姉さんにはレンタル冷蔵庫(冷凍機能付)とレンタルかき氷機を使って貰おうという計画なのだ。冷蔵庫とかき氷機はリンゴ飴用の屋台製作が終わればナーノに頼むつもりのゴン。


 現実問題としてそのナーノへの報酬がテキ屋料理で済んでる今こそ沢山の屋台を頼むべきだとゴンは考えていた。

 それでもゴンはこの世界で素材が揃わない屋台をするつもりは無い。なのでこうして食材ハンターの人が来てくれるのは有難いのである。


 ゴンのまだ知らない食材(この世界の)について聞けるからその食材の中でテキ屋料理に活かせる物もあると考えているのだ。


 戻ったゴンは他の者に外に出て貰いナーノと二人でリンゴ飴用の屋台を製作。そこでナーノにリンゴ飴を振る舞う。


「うわ〜、ゴン! これ美味しい〜。これならベビーカステラと違って一個で別腹の二分目まで行くね!」


 ちなみにとゴンは聞いてみた。


「ねぇ、ナーノ。ベビーカステラだとどれぐらい食べると別腹の二分目までいくの?」


「う〜んっとね、四袋かな? いや、五袋目の途中ぐらいかな? とにかくそれぐらいだよゴン」


 返事を聞いてやっぱりナーノのお腹は異空庫だと確信したゴンであった。


 そのままナーノに冷蔵庫(冷凍機能付)とかき氷機を作って貰う。シロップはまだ作ってないのでかき氷機のレンタルは後回しにするつもりだ。


 そして外で待機してもらっていた他の者に入って貰い、リンゴ飴を体験して貰う。が、適性者がいなかったので取り敢えずゴンとナーノが担当する事に決めた。 


「それじゃ、皆さん。先ずは一週間後に西地区でこれらの屋台を始めます。それまで各自で練習して下さいね。僕とナーノは少し野暮用があって二日ほどこれませんがお願いします。クレイさん、ローパーさん、アゲハさんは引き続き食材ハントをお願いします。出来ればアゲハさんはリンゴ以外の果物や他の木の実もハントしてもらえたらと思います」


「はい!! ゴンの兄貴、ナーノの姉御!!」 


 そしてゴンはライヤに相談しに行く。秘伝のタレを食堂で使って貰う為だ。今回は醤油と味噌の二つのバージョンで作っている。

 食堂はちょうど夕方五時までの中休みである。


「お父さん、こっちの味噌ダレはオークと良く合うよ。で、こっちの醤油ダレはミノタウロスと良く合うんだよ」


 ちなみにこの世界のオークは四足歩行の見た目が猪豚の体長が二・五メートルから三メートルある大きさだ。ミノタウロスも四足歩行の牛だが体高一メートル六十から二メートル、体長三・五メートルから四・五メートルあり、角が斧である。


 ゴンに言われたライヤは賄い用に取っておいたオークとミノタウロスの端切れをフライパンに入れて焼き、表面が焼けた時にオーク肉に味噌ダレ、ミノタウロス肉に醤油ダレをかけた。


「ふわあ〜!? こ、この匂いは絶対に美味しいやつっ!!」


 ナーノの言葉が厨房に響く。 


 試食会が始まりライヤ、ハーミン、ナーノのフォークが止まらない。


「こ、このオーク! 何ていう味だ!! これはうちの食堂の目玉になるぞっ!!」


「何いってるの、ライヤ! こっちのミノタウロスを食べて見なさいよっ!! 断然こっちが目玉よっ!!」


「もうダメ、これを食べたら他所でお肉を食べられないよ〜」


 とまあこれまた喜ばしい反応を見せてくれる三人にゴンは言う。


「お父さん、この秘伝のタレを肉串の屋台のおじさん、おばさんに売ってみようと思ってるんだ。幾らにすれば良いかな? その時に串の値段も上げて貰おうかと思ってるんだけど」


「ゴン、今は肉三個で小銅貨三枚だったな。値上げはどれぐらいのつもりなんだ?」

 

 ライヤの質問にゴンは答えた。


「うん、肉を四個にして貰ってタレ焼きしたものは小銅貨五枚で売って貰えたらと思ってるんだ。だからおじさんとおばさんが損をしない金額で売りたいと考えてるんだけど」


「よし、分かった。肉串の屋台だとハッサムとビジーヌだな。今から呼んでくるよ。ここで話をしよう。その方がスムーズに決まるから」


 そう言うとライヤは食堂から飛び出していった。


 西地区まで行って二人を連れてくるのにかかった時間は十五分。早すぎである。


「ハァハァ、ラ、ライヤ!! 何だって言うんだ、緊急事態っていうのは!」


「そ、そうよ、ライヤ! 私たち二人、あんたよりも年を取ってるんだからね、こんなに走ったらポックリ逝っちゃうわよ!」


 息を切らしながらライヤに文句を言うが、ハーミンから水を渡されて落ち着いたようだ。


「何だか良い匂いがするな」

「ホントねあなた」


 という事で二人にも食べて貰う。ゴンはいつも二人で作ってる肉串を知っているので、その通りのスタイルで二人に二本ずつ手渡した。オーク肉は味噌ダレ、ミノタウロスは醤油ダレだ。


「!? ウォーッ! こ、これはっ!!」

「すっごく、美味しいじゃない!!」


 食べた二人はそう言い、ライヤとゴンに向かってこのタレを売ってくれと頼んでくる。


 ゴンとしては一壺(凡そ一・五リットル入り)を銅貨二枚(二千円)でと考えていたのでその金額を提示してみる。ついでにその時に値上げについても言ってみる。


「うん? 肉四個でこのタレ付を小銅貨五枚でだって? いやいや、ゴン。このタレ付は肉五個で銅貨一枚で売るつもりだ。だから、タレは一壺銅貨五枚で売って欲しい。使ってるうちに減ってくるだろうから、その都度うちから依頼するからな」


 と言い頑として譲らないのでゴンも負けてその値段で売る事になった。


 そして、そのまま壺を大事そうに抱えて帰る二人に飲み物屋台のお姉さんも呼んで貰う。


 お姉さんは三十分後にやって来た。


 そこでナーノが作ってくれた冷蔵庫を見せてお姉さんにレンタルしませんかと打診してみる。


「どうだ、カルメル。うちの息子が言うからにはこれでもっと売れるようになるぞ!!」


 ライヤがお姉さんことカルメルにそう言うと、カルメルは


「う〜ん、レンタルもしたいけど私もゴンくんやナーノちゃんの組織に組み込んでくれないかしら? ついでに言うとハッサムさんとビジーヌさんもそうして欲しいから頼んでくれって言われたの。どうかな? もちろん、そうなってもレンタル料は支払うわよ」


 そう言ってくる。ゴンは一日レンタルで小銅貨五枚でと考えていたが、カルメルからは一日銅貨一枚でと提案してきた。


 そして、ゴンとしても屋台をまとめるのはこれからのやる事に都合が良いと考えてカルメルやハッサム、ビジーヌもテキ屋組織に入って貰う事にしたのだった。 


 ゴンが初めに考えていたよりも大所帯になったけれども、それでも何とかしていこうと決意するゴンであった。

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