第14話 邪神ちゃん(閑話)

 


 ここは何処とも知れない異次元の場所。そんな場所に一人の少女が、十数人の従者眷族と共に住んでいた。


 少女自身、何故かは分からないが【邪神】と呼ばれてとある一部の人々に敬われている現状。


「う〜…… またじゃ! またあのアホ共が貢ぎ物じゃと言うてオークの死体を祭壇に捧げておるのじゃ」


「ジャー様、またでございますか!? あのアホ共にはちゃんと伝えたのですが……」


「全く、わらわは美食家じゃと言うのに!! 料理もされておらん生肉を食べる筈が無かろう!!」


「取り敢えず肉は回収しておきます。料理してジャー様にお出ししますので」


「頼むのじゃ! それと妾の為に美味なる物を探索して来て欲しいのじゃ! 誰が良いかの?」


「ジャー様、それでしたらマスルとヒンニが適任かと思います」


「あの二人か、そうじゃな。あの二人ならば他の神の世界にも行けるのじゃ。それに拠点も設けてくれるし。良し、マスルとヒンニを呼んで欲しいのじゃ、ムーコ」


「畏まりましたジャー様。ついでに肉を回収して参ります」


 ムーコと呼ばれた角の生えた女性はジャーこと邪神ちゃんの前から消えた。

 そして祭壇前に顕現する。その姿を見て祭壇に祈りを捧げていた人々がひれ伏す。


「おおーっ!! 邪神様!! 我らの供物くもつをどうぞお受けとり下さいませっ!!」


 そう人々に言われたムーコは威圧を最小限に出して人々に言う。本気で威圧すればこの人々が死んでしまうからだ。


「愚か者!! 何度いえば分かるのだ!! 私はジャー様では無いと言っておろうがっ!! それにこれも何度も言っておるがジャー様は生肉など食べられぬっ!! ちゃんと料理した物を供物として捧げよと申したであろうっ!! 次は無いと思えよ、愚か者どもっ!!」


 と言ったは良いがムーコが使っている言語は神代かみよの言語。その言語を理解する人々は居らず……


「おっ、おい! お怒りだぞ!」

「邪神様がお怒りだっ!!」

「やはりオークではダメだったのだ!!」

「クッ、ならば王国の姫を攫うしかないなっ!!」

「うむ、次こそは気にいって頂けるに違いない!!」


 とザワザワと騒いでいた。これをムーコが聞いていたならば更に怒りが爆発したのであろうが、ムーコもアホな人々と関わり合いになりたくなくて、威圧して言うだけ言うとオークを持って既に邪神ちゃんの領域へと戻っていたのであった……


 意思疎通は大事なんだという例えのような話である……


 戻ったムーコは邪神ちゃんの眷族仲間であるマスルとヒンニを見つけた。


「マスル、ヒンニ、ジャー様がお呼びだ。御前に向かうように」


「はい、ムーコさん分かりました」

「ムーコちゃん、分かったわ〜」


 二人の返事を聞いてからムーコは解体場へと向かう。そこで自らオークを解体し、熟成場へと保管した。


「全く、ジャー様を邪神などと呼び信仰するなど…… それもこれもクージャーク様の所為なのだが…… あの方ときたら我ら竜・蛇族を目の敵にされているからな…… しかしあの方は神母である西王母様の九十二番目のお子様。記念すべき百番目のお子様であるジャーシーン様よりも上のお立場…… ああ、シーンノーウ様はどちらに居られるのか? シーンノーウ様の世界に紛れ込む事が出来たならジャー様も邪神などと言われる事が無いのだが…… ハッ!? そうだ! マスルとヒンニが美味探索に出かけるついでにシーンノーウ様の世界を探してきてもらえば良いのだ!!」


 そう独り言ちたムーコはマスルとヒンニが戻ってくるまでに邪神ちゃんのご飯を作るために料理を始めたのだった。


 邪神と呼ばれているのは兄神であるクージャークに嫌われている為であり、本来ならば蛟神竜蛇神として、また水神として敬われるべき存在である邪神ちゃん。しかし自らが創造した星では既に邪神として認識されてしまっているので本来の力を発揮出来ないのだ。

 それにより星は荒廃してしまっている。


 邪神ちゃんはそれでも何とか自らが生みだした愛子まなごたちの為に奮闘しようとしたのだが、クージャークから送り込まれた異世界人たちが【邪神教】なる宗教を始めてしまい…… それに愛子たちも汚染され……


「何とかしたいのじゃが、妾ではもはやどうにも出来ぬのじゃ…… クージャーク兄さまは何で妾をそんなに嫌うのであろうか……」


 一人になった時にはいつもこのように考え込み落ち込んでしまう邪神ちゃんであった。


 今はまだ、供物として人を捧げる者がいないのでホッとしているがそれも時間の問題だと思っている邪神ちゃん。それまでに何とかせねばと気ばかり焦るのだが、何も出来ず異次元に籠もるしかない自分にも歯痒い思いをしている。


「とにかく妾が食べた事が無いような美味を探して来て欲しいのじゃ、マスルにヒンニ。美味なるものを食べれば多少は力も戻るのじゃ、どうか頼むぞよ」


「ジャー様…… お任せ下さい! このマスル、二十年以内には必ずや見つけてジャー様の御前に戻って参ります!」


「ジャー様〜ヒンニも頑張って探します〜」


「うむ、二人とも頼むぞよ。それでも二人が無茶をして居なくなるのも辛いゆえに無茶はせずに気長に探してくれたら良いからの。もはや妾にはムーコをはじめ十二将しか眷族が残っておらぬゆえな。一人でも欠けると妾は悲しい……」


「はい! 命がけで戻って参ります!!」

「大丈夫ですジャー様〜。ちゃんと隠れて行きます〜」 


 二人ともそう言うと邪神ちゃんの御前から退出した。そして眷族の為の食堂へと向かう。


「戻ったか、マスルにヒンニ。実は二人にジャー様とは別の頼みがあるのだ」


「何でしょうムーコさん?」

「何かしら〜ムーコちゃん?」


「うむ、シーンノーウ様かシーンノーウ様の創造された星を探して来て欲しいのだ。思えばシーンノーウ様はジャー様にいつも優しかった。シーンノーウ様に今の現状をお教えしてクージャーク様を抑えていただければこのおかしな状態も良くなる筈だ。なので、頼む二人とも」


 そう言って頭を下げるムーコに二人は任せてと言ってムーコの作った食事を終えて旅立っていった。


「ジャーシーン十二将の中でも特に探索に秀でた二人が行ったのだ。きっと二十年以内にシーンノーウ様の星と美味を見つけて戻ってきてくれるはず。我ら残る十将はそれまでジャー様を確りとお守りせねば……」



 ゴンが異世界ラルゴに産まれて十五年後、マスルとヒンニは異世界ラルゴを見つける事となる。


 そして、ゴンによるテキ屋料理と出会い……


 物事が動き出すのであった!? 


 それまで頑張れ邪神ちゃん!!


 君が出会った事の無い美味まで後少し(十五年後)なのだから……


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