1話目を読んでの感想
物語は電車内の一場面から始まる。夏の日差しを無視するかのような黒ずくめの女と、眼帯をつけた少女。二人の対話は、日常的な会話の形を取りながらも、どこか芝居がかった緊張感を帯びている。
「勿体無いねぇ」という女の一言は、読者にさえ戸惑いをもたらす。可愛らしさと儚さを同時に見抜く視線。それを受け取る少女の心情の揺れが、ためらいと観察を行き来する筆致で淡々と描かれる。過剰な説明を避け、仕草やわずかな言葉に含みを持たせている点が、むしろ鮮烈な印象を残す。
イヴと名乗る女の存在は、名前の提示ひとつで異質さを増す。ひび割れたスマートフォンの描写など、細部に置かれた小道具が現実感を保ちながらも不安を漂わせている。彼女が立ち去った後の「……変な人」という独白は、緊張の余韻を巧みに切り替える。軽さと不穏さが同居する構成だ。
奇妙な女との偶然の出会い。その短い場面の中に、今後への予感と物語を押し開く力が十分に込められている。簡素で、しかし確かな輪郭を持つ序章。