たけのこエルフから始まる、2人と一匹の奇妙でほのぼのな山暮らし!

❄️風宮 翠霞❄️

第1話 【急募】山で生えてたエルフを拾った時の対処法

 少し、僕の話を聞いてほしい。

 え? 忙しいからどっか行けって? ……ごめんて。

 5分だけでいいから、時間ちょうだい? まじで頼むって。


 実はさぁ、訊きたいんだけどさ。

 今時の山ってさぁ……エルフが生えてるもんなの? 普通なの? この光景。

 

 え……だって、僕の山では生えてたんだよ。

 そう……こう、ニョキっと。

 タケノコみたいに、地面から。


 ……いや、そんなわけねぇでしょとは思うだろうけど、マジなんだよ。

 本当なんだって。


 山を歩いてたら、額に黒い墨で「たけのこ」と書かれてる長いサラサラした金髪で背の高い男の首が、飛び出してるのが見えてさぁ。


 ……真っ赤なキノコが近くにあって、その上で意識なかったから、とりあえず全力で吐かせたよね。うん。原因だいたいわかるし。


 なんか首だけ地面から出てるから生首みたいで怖かったし額の「たけのこ」の文字がマジで意味わからなくて怖かったけど……困ってる人は助けなきゃだからさ。


 まぁそんな感じである程度なんとかしてから、とりあえず助けようと思って拾って帰ったら……その人の耳が、長くて尖ってたんだよ。


 なぁ……エルフって、どうしたらいいの?

 いや、今はとりあえず頑張って丸洗いして適当な服着せて、家にあった布団の上に寝かせてるんだけど。


 犯罪だって? 

 いや、相手は確かに綺麗で美しいけど、男だし何より緊急時だしセーフ。

 ……それに、額にアホみたいな落書きされてるし。

 何あの「たけのこ」。

 マッキーで描いたの? ってくらいに落ちなかったんだけど。まぁいいや。

 あれが残ってるからって、命に危険はないだろうし。


 それよりさ。エルフが起きたらどうすればいいの? 何食べるの?

 僕の家、今引越ししてすぐだから……食べ物、カップラーメンしかないんだけど。


 エルフにカップラーメンって食べさせていいの?

 ねぇ、有識者の誰か教えて!?


 ひたすらに混乱して、知恵袋に似たような質問がないか検索していた僕は……。

 とりあえず一旦落ち着くためにタバコに火をつけながら、こうなるまでの道のりを思い出していた。




 僕こと鈴木すずきりんは、名前の漢字が前から読んでも後ろから読んでも同じなことくらいしか特徴がない立派な限界社会人だ。

 いや……正確には、限界社会人だった。


 死んだ魚を真夏の炎天下に放置して腐らせた上に塩酸をぶっかけたみたいな、死んでドロンとした目で社畜として新卒からの3年間働いていたのだけど……。


 婚約状態だった年下の彼女に、浮気の上で婚約破棄されまして。

 ほんと、意味わからないよね。

 始まりはあっちからの告白だよ? 6年付き合ってたんだよ? 泣きたい。


 いや、僕が仕事忙しくてろくに会いに行けなかったのも悪いとは思うよ?

 でもさぁ……よりにもよって、結婚式で「ちょっと待ったぁ!」ってする?


 僕、全然話し合いに応じない彼女の代わりに忙しい合間を縫って準備したんだよ?

 上司の嫌味にも耐えて、同期に何度も頭下げて仕事を一部肩代わりしてもらって、それでなんとか式のための時間を捻出したんだよ?


 なぁにが「私、やっぱり貴方とは一緒になれない」だよ。

 年下の大学生と浮気とか……無い。壊滅的に無い。本当無い。


 まぁ、そんな感じで見事捨てられた花婿になった僕は、友達の慰めにも耐えきれなくなって……色々どうでも良くなって山を買った。


 は? って感じだよね。

 わかるよ。

 僕も知らん人とか友達からこんなこと言われたら、そう思うもん。


 でもさぁ……なんか、そん時は多分混乱してたんだよね。

 なんか全部勢いで動いてたし、その時の思考の五分の四は脊髄で考えてたと思う。

 あ、つまり反射ってことです。


 そう。なんだっけ。ああ……山の話ね。

 ともかく僕は、そんなもはや勢い以外何もないくらいの勢いで身の回りのことを色々して……。


 元婚約者の家族から支払われた慰謝料その他諸々のお金を使って、地方にある山を一つ買い取った。

 なんか一応電気があって、水道もあって、結構新めの家があって……けど本当に稀に少しだけ問題が起こることがあるから、お買い得って言われた場所を。


 ……いやまぁ、危険は野生動物とか普通のためと変わらないことしかないよと言われたからさ。別にいいやと思ったんだよ。


 それで、仕事もスパッと辞めて済んでたマンションの部屋も引き払って、電気設備付きの可愛い一軒家付きの山に越してきた訳だ。

 家庭菜園できるぞ! ……と、ウッキウキな感じで。


 ……思い返すと、僕ほんとチョロいな。

 まぁ、僕のチョロさは今に始まったことじゃないから傍に置いとくとして。


 まぁ、そんなこんなで引っ越してきたのが昨日で……。

 とりあえず近所というか麓の村の村長さんにはチラッと挨拶して、少し家の周りを見て歩いて、菜園にちょうど良さげな場所でも探すかぁ……。

 というのが、今日だったのだけど。




「……どうすりゃいいのさ」


 ……まさか、挨拶に行く途中の道でエルフを拾うとはなぁ。

 僕はまだ25歳だけど、長く生きてるとそういう事もあるんだろうか?


 タバコを吸い終わって現実に戻ってきてしまった僕はそう考えて首を捻って……。

 ついでに、昨日と今日で頑張って開けたダンボールの処分方法にも首を捻る。


 少し視界を動かすと、庭先のスズメが僕と全く同じように首を傾げてた。

 かわいい。僕は可愛くないだろうけど、スズメはかわいい。


 ……布団の上に広がった金髪がキラキラ光って、僕の現実逃避を邪魔してきた。

 ダンボールの山も、視界の端にチラチラと入って視界情報を圧迫して……圧をかけてくる。


「うう……良いじゃないか別に。スズメを愛でるくらい」


 言い訳をする相手はいないけど、なんとなく呟いてから……。


 まじで、このダンボールの山とエルフ……どうすりゃいいんだろう。

 という問題に、僕は改めて向き直った。……はずだった。


「ひぃっ!?」 


 さっきまで眠りこけていたはずのエルフが、いつの間にか黄緑色の目をぱっちりと開いていて……。


「ごめんなさいすみません、まじで助けてくれてありがとうございます」


 と言って土下座をした上で「大変厚かましいお願いだとは思うんですけど……」と前置きをしてから……。


「キノコ以外の何かを、食べさせていただけませんでしょうかっ……!」


 とお腹を鳴らして言う姿を見て、エルフさんの文化にも土下座ってあるんだな……え、あるのかな?

 ……と思いつつ「あ、はい」と言ってカップラーメンを準備し始めることで、すぐに現実逃避したけど。

 

 一応一瞬は向き直ったから、今日はもういいよね。

 ……山暮らしって、難しいんだなぁ。


 安心したように笑ったエルフさんを見てそう思いながら……そんな感じで、僕の山暮らしは幕を開けた。

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