追放された最強魔術師、異世界学園でスローライフを満喫するはずが、なぜか美少女たちに囲まれて最強無双!?

反応

第一話 最強の魔術師、追放

 轟音が、戦場を揺るがした。


 王都の外れ、広大な草原に、黒煙が立ちのぼる。

 魔物の大群が王国の防衛線を突破し、今まさに市街地へとなだれ込もうとしていた。


「リオ様! 前線が持ちません!」


 焦燥に満ちた声が、魔術師団の指揮官テントに響く。

 だが、中央に立つ一人の青年――リオは、静かに目を閉じたまま動かない。


「……全員、下がれ」


 低く、しかしよく通る声。

 その一言で、周囲の魔術師たちは一斉に後退を始める。

 リオが杖を掲げると、空気が震え、草原に漂う魔力が渦を巻いた。


「――《星降りの大火》」


 呟くような詠唱。

 次の瞬間、夜空の星が降るように、無数の火球が天から舞い降りる。


 轟音と閃光。

 魔物の群れは、リオの魔法が触れた瞬間、跡形もなく消し飛んだ。


 風が止み、静寂が訪れる。

 焦げた大地と、呆然と立ち尽くす兵士たち。

 その中心で、リオはただ静かに杖を下ろした。


「……これで終わりだ。あとは、任せた」


 誰よりも強く、誰よりも静かに――

 それが、王国最強の魔術師、リオの戦い方だった。


 魔物の群れが一瞬で消滅した光景に、兵士たちはしばし呆然としていた。

 やがて、誰かが「リオ様だ!」「リオ様がやってくれた!」と叫び、歓声が次々と上がる。


「さすがリオ様……!」

「これぞ王国最強の魔術師!」

「リオ様がいれば、王国は安泰だ!」


 兵士たちだけでなく、遠巻きに見守っていた王都の民たちも、口々にリオを称え始める。

 誰もが彼の偉業を称賛し、感謝の言葉を惜しまない。


 だが、当のリオはというと――


「……まったく、また大げさに騒いでる」


 リオは肩をすくめ、小さくため息をついた。

 周囲の熱狂ぶりにも、彼はどこか醒めた表情を崩さない。

 拍手や歓声が自分に向けられることにも、もう慣れっこだった。


「リオ様! お怪我はありませんか?」

「さすがです! あの魔物の大群を一撃で……!」


 次々と駆け寄ってくる魔術師団の仲間たちや、王都の民たち。

 リオは苦笑しながら、適当に手を振って応じる。


「大丈夫だよ。これくらい、どうってことないさ」


 そう言いながらも、彼の心はどこか遠く、浮かない。


(いつも同じだ。俺が何をしても、結局は“最強”だと持ち上げられるだけ……)


 リオは群がる人々の輪の中、ひとり静かに空を見上げた。

 その瞳には、どこか物足りなさと、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。


 歓声の輪から少し離れた場所、魔術師団のテントの陰で、数人の魔術師たちがひそひそと声を潜めていた。


「……またリオ様の独り舞台か」

「まったくだ。俺たちがどれだけ準備しても、あいつが出てきたら全部台無しだ」

「しかも、みんなリオ様リオ様って……。正直、鼻につくよな」


 リオの活躍を称える声が遠くから聞こえてくるたび、彼らの顔には不満と嫉妬が色濃く浮かぶ。


「そもそも、あいつの魔力は異常だ。人間じゃないって噂もあるくらいだし」

「最近、団長もリオばかり贔屓してるしな。俺たちの努力なんて、誰も見ちゃいない」


 一人が拳を握りしめ、悔しげに地面を蹴る。


「……でも、あいつがいなければ、王国はとっくに滅んでるだろ」

「それは分かってる。でも、だからって、あんなに持ち上げられて……」


 誰もがリオの実力を認めている。

 だが、それが彼らの心の棘となり、やがて小さな嫉妬の炎を育てていく。


「……いっそ、あいつがいなければいいのにな」


 その言葉に、他の魔術師たちが一瞬息を呑む。

 だが、誰も否定はしなかった。


 歓声と拍手の影で、静かに、しかし確実に、リオへの妬みと陰謀の芽が膨らみ始めていた。


 夜の帳が王都を包み、魔術師団の宿舎にも静けさが訪れた。


 その一室、灯りを落とした薄暗い部屋に、数人の魔術師が集まっていた。

 彼らの目は、昼間の賑やかさとは打って変わって、暗い光を宿している。


「……準備はできているな?」

「問題ない。証拠も揃えた。あとは、あいつを罠にかけるだけだ」

「団長も、リオの最近のやり方には不満を持っている。うまくいけば、奴を団から追い出せるかもしれない」


 机の上には、魔術師団の規律違反をでっちあげた書類や、魔力の痕跡を偽造した証拠品が並んでいる。


「明日の朝、団長に提出しよう。リオが魔力を私的に使い、王国の機密を漏洩した――そう訴えるんだ」

「さすがに団長も、これだけの証拠を突きつけられれば、リオを庇いきれないはずだ」


 一人が不安げに尋ねる。


「……本当に、これでいいのか? リオがいなくなれば、王国の防衛は――」

「心配するな。あいつがいなくても、俺たちが何とかするさ。むしろ、今までのように影で怯える必要がなくなる」


 誰かが乾いた笑いを漏らす。


「明日からは、俺たちが“最強”だ」


 その夜、彼らは密かに誓い合った。

 リオという“王国最強の魔術師”を、魔術師団から追放することを。


 そして翌朝――

 リオが団長室に呼び出される。


「リオ、お前に重大な疑惑がかけられている」


 団長の厳しい声と、冷たい視線。

 リオの周囲には、同僚たちの薄笑いと、密かな勝利の色が満ちていた。


 団長室は重苦しい沈黙に包まれていた。

 机の上には分厚い帳簿と、何枚もの報告書が並べられている。


「リオ、お前に魔術師団の予算を横領した疑いがかかっている」


 団長の声は冷たく、部屋の隅には数人の同僚たちが腕を組み、不敵な笑みを浮かべて立っている。


「……冗談でしょう。俺がそんなことをするはずがありません」


 リオは静かに、しかしはっきりと否定した。


「だが、ここに証拠がある。お前の署名が入った金銭の移動記録、そして目撃証言も複数寄せられている」


 団長は机上の書類を指し示す。その中には、リオが見たこともない報告書や、明らかに偽造された署名があった。


「俺は一切関与していません。書類も、署名も、誰かが偽造したものです。俺を陥れようとしている者がいる――」


「言い訳は聞き飽きた。複数の部下が、お前が金庫室に出入りしていたと証言している。

 これだけの証拠が揃っている以上、弁明の余地はない」


 同僚たちの視線は、勝ち誇った色に染まっていた。


「リオ、お前を魔術師団から追放する。

 王都にも、もう戻るな」


 団長の言葉が、重く響く。


 リオはしばし沈黙し、やがて小さく息を吐いた。


「……分かりました」


 静かに頭を下げ、リオは団長室を去った。

 その背中を、同僚たちの冷たい視線と、密かな嘲笑が見送っていた。


 

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