第20話「陰謀の夜」
王都アルカディアは、今も夜を知らぬ都市だった。
魔導灯が街路を照らし、劇場からは楽団の調べ、広場では民たちが語らい、
まるで“平穏”が永遠に続くかのように、人々は笑っていた。
だがその裏で、いくつもの“刃”が抜かれようとしていた。
***
その夜、王都西部――貴族街の裏通り。
黒衣の男たちが、無言で集結していた。
「王令が通った。これ以上の猶予はない」
「“光”が強くなる前に、“影”の力で断つ」
彼らは、バルフォア公爵の密命を受けた黒紋派――
かつて王家すら手を焼いた、“亡き影の時代”の生き残りたちだった。
「目標は、アストレア邸。対象は、軍師本人。可能なら、遺言すら残させるな」
***
同刻、アストレア邸・作戦室。
「……妙だ。各情報ノードが、数分間だけ“強制遮断”されてる」
ザックが魔導端末を睨みながら報告する。
「動く気ね。今夜が“勝負所”ってわけ」
シオンは、静かに防護結界を起動させた。
「警備部隊、第三配備態勢に。カイル、裏口の監視を」
「了解。“影”が来るなら、“牙”で迎える」
レティアも剣を抜き、無言で頷いた。
「この屋敷は、ただの“家”じゃない。“陣”よ。入ってきた敵は、全て“盤面”に変える」
***
午前二時。
黒紋派の刺客たちが、複数のルートから屋敷に侵入した。
だが、そのすべてが――“読まれていた”。
「こっちに回ったか……なら、トラップ起動!」
レティアの合図とともに、廊下が封鎖され、火の結界が立ち上がる。
「各自配置に。時間差で“第二陣形”を展開」
シオンの指示により、屋敷全体が“可変式迎撃構造”へと変貌する。
「まさか……ここまでとは……!」
驚愕する刺客の一人が呟いた直後、天井から降りた魔導雷が無力化結界を打ち抜いた。
(これは、“戦術家”の家ではない……“戦場そのもの”だ)
***
中央広間。
ついに、黒紋派の指揮官が姿を現した。
「……君が、“王に選ばれた少女”か。
だが、“影”に選ばれた者の強さを、甘く見るな」
「選ばれた? いいえ。“影”は、選ばれるものじゃない。“生まれるもの”よ。
そして私は、影を知った“光”」
シオンの言葉とともに、最後の迎撃陣が起動する。
空中に展開された魔導方陣が、四重に敵を包囲。
「くっ……!」
「終わりよ。“夜”は、もう明ける」
***
翌朝。
捕らえられた黒紋派の幹部たちは、次々と“ある名”を口にした。
「……命を出したのは、バルフォア……」
王都に激震が走った。
「王令に抗い、王命に刃を向けた罪により、
バルフォア公爵を――“国家反逆罪”として拘束する」
王の命令が下る。
***
夜が明ける。
シオンは屋敷の屋上で、東の空を見つめていた。
「これが……“影と光”の決着」
「でも、そのどちらにも偏らなかったから……君は“策士”なんだな」
レティアが静かに隣に立つ。
「ありがとう。……そして、これからも」
朝日が、王都を黄金色に染める。
その中心に立つシオンの影は、確かに“新たな時代の輪郭”を描いていた。
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