小説版【力物語true】シナリオ集

ゆび ななお

慈水の宝珠

シナリオ【慈水の宝珠】1-1


「ねえ、ナース。聞いてるの? ナースティア!!」


 ボリュームのある、明るい金髪。背中を流れ落ち、腰のあたりできついパーマがかかっていて丸く毛先がまとまっている。激しく動くときも跳ねることによって、体に絡みつく事を防ぐ工夫がなされた、美しい髪。

 それをもつ、やや身長の低い、活動的な印象を与える女性が。

 自分の前を歩く、長身で艶やかな黒い頭髪を腰まで伸ばした女性に向かって声をかける。


「何ですか? アゼル」


 黒髪の女性は振り返り、上品な表情をその白皙の整った顔に浮かべて。

 声をかけてきた金髪の女性に問い返した。


「ナース!! お腹空いたよ!! もうお昼過ぎてるじゃんかよ!!」

「……ああ。そうですわね。でも、街を出る前に。ギルドのビュッフェで十分に食べて来たではないですか、わたくし達は」

「うん。でも、お腹空いたのよねアタシ。現実って言うのは不思議だわ。カロリー計算なんて何のアテにもならないもん」

「……あなたは、本当に。ユニークな存在です。私はそんなあなたが大好きですよ、アゼルベルド」

「あっはっはー!! ありがとね、ナース。アタシもアンタのこと好きよ」

「はい、わかっています」


 黒髪の女性、ナースティアはそこで周囲を見回した。


 平原。どうやら、大いなる過去にはここには街があったのだろうが。

 折れた石柱がいくつか残っている事でそうと連想できるモノの、それも草生して。

 街を作っていただろう、主な石材は既にほとんど残ってはいない。


 風化をしたと。言うワケではないらしい。

 なぜ石材がないかという理由は簡単である。

 街が滅んだ後に、石材と云うモノは価値ある資源として、持ち去られる事も無くはない。価値の高い石の種類であれば尚更に。そういう事であるのだろう。


「この街で、合っていますね。件の【宝珠】があるとされる古の街は」


 ナースティアは、周囲を見回し。その様な判断を下したようだ。


「水がいくらでも湧いてくる。そういう宝珠だっけ? でもそれ、井戸でいいんじゃん?」


 アゼルベルドは、今回の【依頼】の内容を思い出したらしく。その様な言葉を放った。


 この二人、アゼルベルド=エルーナ、並びにナースティア=レードリールという二人の女性は。ある職業に就いている人間である。


 【冒険者】と呼ばれる、探索と魔物退治とトレジャーハントを主な仕事として熟す稼業なのだが、その仕事の情報を得るために、【冒険者ギルド】という街単位の情報屋が国単位でネットワークを持つ組織に所属しており。


 その【ギルド】内での依頼振り分けの為の目安である【ギルドランク】で言えば、アゼルベルドは現状では中の上と言える「B+」というランクにあり、ナースティアは上の中である「A」のランクに現状は位置する。


「ユズティーユの姐様が。紹介してくれたお仕事でしてね、アゼル」


 ナースティアはアゼルベルドに、今回の仕事の情報の詳細を語り始めた。


「うん、しってるよ」


 アゼルベルドは快活に答える。


「たしかに、水を湛える宝珠ではあるのですが……。じつは、宝珠から湧く水には、毒素の浄化能力が強くあると言われているのです」

「おお。うん、それで?」

「はい。あなたは知っていますか? アル・イシイスの中央部国家群の一つ、メルキ・アクトス国で。原因不明の疫病が蔓延していることを」

「知らん!!」

「でしょうね。貴女は情報紙を読みませんから……」

「一応文字は読めるわよ!!」

「はいはい。それで、ですね。疫病の治療法や特効薬が開発されるまでの間、メルキ・アクトス国の上層部を生き残らせる為にも。【慈水の宝珠】が必要とされている。そう言うワケですのよ」

「ははあ……。で、大金を積んで来た。そう言うワケなんね? ナース?」

「違いないですわね。いつでも、支配者や権力者と云うモノは。自分の身を守る為ならば、税金を私用するぐらいの事は面の皮一つ動かさずに平気で行いますからね」

「まーねー。むしろそれ出来るからこそ。人間って支配力や権力を求めるんじゃないのかなー、とは思ったりすんな、アタシは。それより、お腹空いたよー!! お弁当食べようよ、ナース!!」

「……まあ、良いですわ。そういたしましょうか、アゼル」


 ナースティアはそういうと。

 左の手の平を胸の前で上に向けて開いた。


 よくよく見ると、その左手の手の平には、何やら複雑な入れ墨が施されてある。


 ナースティアは、一度左手を握りしめ、また開いた。

 すると、左手の平の上に。


 光を吸収する、全く光を反射しない闇の球が現れた。

 ナースティアはそこに右腕を突っ込み、中で何かを掴んだような様子で。

 右腕を引き出すと、そこにはサンドイッチのバスケットが現れた。


 これは、闇魔導の空間を歪曲する仕組みによって、アイテムや装備をほぼ無限に持って歩くことが出来る優れものの魔導術の一態である。冒険者稼業の者はある程度の資金を貯めるとこの入れ墨をうける施術をして、冒険の効率を高める事を為すのが常道とされているのである。


1-1 END

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