ストポリト
青咲花星
task 0 : Job name
それは大学受験の試験が終わった帰り道。
試験の手応えはあったが、少々やんちゃしていた己の人生を考えるといつバレるか少々ハラハラする。
そう、帰るまでが受験。
そう熱血教師から教えられ大人しくコソコソとできるだけ人通りが多い道を帰っていた。
表をコソコソというのもおかしな話だが、やんちゃな人種って裏に多いから。
「髪も染めたしメガネしてるし誰も気がつかない、筈だけどな」
そう念の為念の為。
ふと、金髪の美少女が写った映画の看板が目に止まった。
「中原サナのサイン会?」
妹がコソコソと推しているアイドル?芸能人?のサイン会がやっていたらしい。
たしか今日はバイトがあって行けないと嘆いていた。
残念ながらもう終わっているみたいだが、ポスターに直筆のサインが入っている。
撮って送ってやろう。
反射で自分も映ってしまうので角度を変えて撮影していると、スマホの画面がぱっと切り替わった。
『地球のみなさんこーんにーちはー☆』
白にうっすら紫がかった色で長く波打った髪。
顔に『神』と書かれた紙。
趣味の悪い黒い首輪をつけてヒラヒラの薄紫のロリータのドレスを着ている。
そこはゴシックロリータに統一しろよ。
スマホが壊れたのか、それともどこかにあったQRコードを読み取ったのか。
突然のウィルスに感染したのか。
爆音に近いその音、その声を下げるために懸命にスマホの音量を小さくしたが、全く小さくならない。
その音は周りからも響いていたのである。
周りをみればあらゆる画面が狂った頭のおかしそうな女を映し出している。
『Hey!そこの幸薄そうな人間ども。いつも楽しそうじゃないから今日はプレゼントを持ってきてやったぜ、感謝しろ』
突然のラップ命令口調。
プレゼントとは一体。
まさかテロや爆弾とかではないだろうな。
冷静に避難経路を確認しようと辺りを見回すとあらゆる反射物にも自称:神。がうざいくらいに映っている事に気がついた。
念の為ガラスの壁に手をあててプロジェクターでもない事を確認した。
そして頬をつねり、夢でもない事を確認する。
残念な事に夢でもないらしい。
せめて誰かと現状を確認したい。
少し離れたところに、おろおろしているキャップを被った子がいたのでその子に声をかけようと歩きだした、が。
視界を塞ぐ何かが大量に吹き荒れた。
紙吹雪だ。
ベタベタと白い紙がメガネに張り付き視界が真っ白になる。
「いてっ」
紙で指が切れた気がする。
思わず腕を引っ込めながら指を握ると紙も握っていた。
握ると紙吹雪もおさまって、周りの人たちも紙を握っていた。
『あなたが手にしたその紙は今日からあなたの第二のジョブネーム!!』
Job titleじゃなくてJob name?
職名じゃなくてジョブ名って言いたいのか?
少しぐしゃっとした短冊の皺を伸ばそうと開いたらピンと綺麗になって文字が現れた。
オレはそれをみて、再びそれを握り潰す。
『ちゃんと役割を果たさないと、大変な事になっちゃうから気をつけてね〜?』
微かに動いた紙の隙間から透明な紫色の瞳がこちらを捉えた。
こちらに向かって言っているようだった。
殴りたい衝動に駆られたが、暴力は封印したのだ。
握り拳で爪が食い込むが必死に抑えた。
『それでは、楽しいジョブ生活を☆』
自称:神。はパチコーン☆とウィンクをして(したような気がした)画面がぶつりと消えた。
やはり殴りたい衝動に駆られたが、まだ受験は終わっていない。
深呼吸してスマホが壊れていないか無事を確認した。
大丈夫だ。スマホは壊れていない。
オレは安堵しながら、握りつぶした紙をもう一度おそるおそる開いた。
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