短編置き場

わためろん

ずっと一緒

春になって高校に上がると、中学まで仲が良かった友達とは違う学校に通うようになり、会うこともほとんどなくなった

高校は地元から電車で小一時間かかるところにあって、自分で言うのも変な感じだがいわゆる進学校だ

顔見知りが少ないので進学したての頃は心細かったが、一か月も通うと学校内での友達も少しは出来たし、同じ中学から進学した友達も何人かいるので案外うまくやれている


「〇〇、そろそろ帰ろうぜ!」

「うい」


噂をすればなんとやらで、中学からの男友達が帰り支度をしながら近づいてきた

中学から仲が良く、高校生になっても一緒に帰っているが、自分と違い昔からこの男は良くモテる

中学の頃に付き合い始めた彼女はこの高校に進学していてクラスが違うがよく一緒に帰っているところを見る

今日は一緒ではないようだが休みだったのだろうか


「あの子は?」

「今日は××さんと用事があるんだってさ」

「用事?」

「女子二人だけで相談したいことがあるから先に帰れって昼にLIMEが来た」

「そうか」


どうやら彼女が用事で抜けて暇になったので自分が呼ばれたようだ

××と自分は小学校から一緒で、小さい頃はよく話していたが、中学生になって以降、だんだんと二人で話す機会が減っていった。自分は相変わらずどこにでもいるありふれた男子生徒だったが、××はどんどん綺麗になり、元からあったおとなしく上品な性格も相まって男女問わず人気になっていった。

昔から綺麗な子だと思っていたが、中学に入ってからはさらに魅力的になって告白されることも増えていた

そいういうことも会話が減った理由なんだろうと考えたこともある

高校に入ってからも人気は衰えるどころか勢いを増し、同じクラスなのに全く話した記憶がない

身長が低めで色白なこともあって天使みたいだと騒いでいる生徒を見かけたこともある

そんな幼馴染と、男友達とその彼女が話し込んでいるところを最近よく見かける。


「お前ら最近何話してんの?」

「何が?」

「いや最近よく3人で集まってるところ見るからさ」

「あ~… ××さんに聞いてみたら?」

「なんでお前は教えてくれないんだよ」

「俺は口を封じられているんだ!」


ガハハと愉快そうに笑ってごまかそうとする男友達に全く納得がいかなかったが、どうしても口を割らなそうなので、それなら久しぶりに××に話しかけてみようという気になった


「うっす」

「! …やっほ」


翌朝教室に入るときにタイミングが重なったので話しかけてみると、少し驚いた顔でこちらを見たあと、俯きながらも笑顔で返事をしてくれた

改めてすごく綺麗だなと思う


「最近、あいつらとなんか相談してるの?」

「え? 誰から聞いたの」

「いや、 ここ何日か話してるところ見かけるからさ」

「あ~… 大したことじゃないんだけど、ちょっとした相談かな」

「ほう」

「〇〇くんも興味ある?」

「うん、ちょっと」


久しぶりに話してみたが思ったより会話が続いて安心している自分がいる


「そっか 興味持ってくれたんだ…」

「え?」

「あ! いや、なんでもないよ!」


なんだか急に××が慌てだした

××の顔がなぜか真っ赤になっていて、初めて見る表情に少し驚く自分


「大丈夫?」

「え? 何が?」

「いや、顔真っ赤だから?」

「え?うそ! あんまりみないでぇ…」


顔立ちが整っているのもあってか、慌てているところも絵になるな、などと失礼なことを考える


「〇〇くんさ、今日の放課後時間ある?」


変なことを考えいている間に真剣な表情に戻った××が顔をぐいっと寄せてきた

女子の顔が目の前に近づいてきてうろたえてしまう


「う、うん」

「じゃあいっしょにかえろ!」

「へ?」


一瞬何を言われたのかわからなかったが頭の中で何度か繰り返してその意味を理解しようとする


「あ、えっと、いいよ?」


結局よく分からないまま返事をしてしまったが、××は初めにあいさつした時以上の笑顔で去っていった

昼休みには男友達とその彼女に「やっとだね」などとよく分からない言葉とともにニタニタとした笑みをうかべられ、もやもやとした気持ちになりながら放課後を迎える


「〇〇くん 帰ろ?」


放課後になって自分も急いで準備をしていたつもりだったが、××はもうカバンを持って自分の机の前に来てくれた

普段は××が男子生徒に話しかけることなど全くないので周りも驚いた表情でこちらを見ている


「ご、ごめん すぐ準備するね」

「ううん! ゆっくりでいいから忘れ物しないようにしないと!」


いや××さんや、この視線の中でよくそんな笑顔できますね…

などと心の中でツッコミつつ急いで準備して学校を出る


「いやぁ、緊張した…」

「〇〇くんもドキドキしてたの?」

「そりゃ、あんだけジロジロ見られればね…」

「へへ、私も緊張してるよ 一緒だね!」


こちらの意味とは違うような気もするが××もどうやら緊張しているらしい

並んで歩きながら顔を覗き込むと真剣な表情で××が話し出した


「わたしさ、ずっと前から好きな人いるんだ」

「それで、あの二人に相談してたんだ?」

「うん… あのさ」

「うん」

「〇〇くんはさ、…好きな人とか……いる?」

「え、うーん ……へ?」


最近のもやもやしていたものがスッキリしたかと思ったら巨大な爆弾が投げ込まれテンパる自分


「い、いや。特にそいういう人はいないかな?」

「そ、そうなんだ…」


どうやって話題を作るかわからずにカツカツと靴の音だけが聞こえる時間が続く


駅前につく直前になって急に××が立ち止まったかと思うとこちらを向いて


「わたし、〇〇くんのことすきなんだよね」


と顔を真っ赤にしながらとても小さな声でつぶやく


「え?俺?なんで?」


初めての経験で何と言ってよいのかもわからず思ったことがそのまま口に出てしまった


「中学に上がって小学校までの友達とかみんなよそよそしくなったんだけど」

「うん」

「〇〇くんはいつもと同じように話しかけてくれたから…」

「あ~… え、それだけで?」

「うん、すごく嬉しかった」

「そっか、」

「それでさ、」

「うん」

「お返事をもらえるとうれしいなって…思うん、ですが…」

「え? あ、ご、ごめん」

「あ、ぜんぜんいいんだよ! こっちこそ、ごめんね?」


中学に上がってから3年近く、雲の上の存在だと思っていた幼馴染に唐突に告白されて戸惑う自分


でも、 目の前の××は今まで見たことのないような表情をしていて、


その感情が自分に向いていることがうれしいやらありがたいやらでキュッと胸が締め付けられる


そして、ふとこの気持ちにぴったりの言葉があることに気が付く


「あの、えっと、何から言おう…」

「うん」

「まずは、すごく嬉しい ありがとう」

「!」

「それから、ぼくも好きです」

「!! ほんと?」

「うん、」


自分では諦めていたつもりだったのだろうか、学年が上がるにつれてほとんど話すこともなくなったけれど見かけるたびに目で追っていたのは好きだったからなんだなと告白されてやっと気が付く


そんな自分にあきれるやら、胸の前で両手をぎゅっと握って満面の笑みを浮かべる××を見て恥ずかしいやらで笑い出してしまう


「ふふ」

「へへへ」

「えっと、これからよろしくお願いします、でいいのかな」

「うん!〇〇くん、よろしくね?」


目の前で頬を桃色に染めながら微笑んだ幼馴染にこちらも自然と笑みがこぼれた


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る