備蓄米
兼穂しい
第1話
パチンコ屋の喫煙スペースで煙草をくゆらせる。
休日だというのに仕事のことが頭から離れない。
入荷する筈の備蓄米がドタキャンされたのだ。
(弱小スーパーだからって馬鹿にしやがって・・・)
背後で聞き覚えのある笑い声。
(岩崎だ・・・)
派手な柄シャツの男が大声で通話している。
気づかれない内にそこを離れようとしたが、岩崎の口から気になる言葉が飛び出した。
「今話題の政府の備蓄米なら俺のツテでどうにでもなるよ。」
岩崎は昔から商売勘の鋭い男だ。
タピオカ屋、唐揚げ屋を起ち上げて大儲けし、何台もの高級外車を乗り回している。
(あいつ、令和の米騒動にも関わっていたのか。)
癪に障るヤツだが、背に腹は代えられない。
スーパーのスカスカな棚を埋められるなら悪魔とでも契約を交わしたい心境なのだ。
「よぉ、岩崎。」
「おー、久しぶりだな。」
「今、ちらっと聞こえたんだけど政府の備蓄米とか・・・」
「ん、興味あるのか?」
「あぁ。紹介頼めないかな?」
「いいよ。そこの店長、学生時代の後輩だから俺が頼めば余裕だぜ。」
* * *
岩崎の紹介で、その日の午後に駅前の時計塔で担当者と会うことになった。
待ち合わせ時間の5分前、その人物は既に時計塔の下にいた。
いや、その人物なのだろうか。
ややケバいが、美形の女性がそこにいた。
人は見かけじゃわからない。
恐る恐る近づくと向こうのほうから話かけてきた。
「岩崎さんのお知り合いの方ですか?」
「ええ、そうです。」
「じゃ、行きましょうか。」
女が早足で歩きだす。
着いた先はラブホテルだった。
これから法律に触れるかもしれない取り引きを行うのだ、カップルを装い商談するには、うってつけの場所かもしれない。
「じゃ、始めますか。」
いきなり女が服を脱ぎ始める。
「ちょ・・・、備蓄米!?」
「はい。あ、まだ名刺をお渡ししていませんでしたっけ?」
手渡された名刺にはこう書かれていた。
『会員制ドスケベ倶楽部Safe(セーフ) 美築麻衣』
~ Fin ~
備蓄米 兼穂しい @KanehoShii
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