第13話 準備
会議室の空気が張りつめていた。
「――動くのは、1週間後。時期も場所もまだ特定できていないが、宮島が最後の“証拠”を処分するなら、その時だ」
尾崎の言葉に、全員が緊張を高める。
水野が前に出る。「じゃあ、この1週間で証拠の場所を突き止める必要があるってことですね」
「それだけじゃない」尾崎は視線を皆に向けた。「相手は公安だ。俺たちの動きにも気づいてくる可能性がある。準備は二重、三重に必要だ」
森山が腕を組んで言った。「じゃあ、俺は公安の出入り記録を洗って、宮島が過去1か月で頻繁に出入りした場所をリストアップする。組織の施設、個人宅、そして――外部の接触者もな」
佐々木も端末を操作しながら言葉を続ける。「私は石岡さんの過去の行動記録をもう一度精査する。あの人なら、データを残した“可能性のある場所”を何ヶ所かに絞り込めると思う。日付、GPS記録、使われた通信回線……すべて交差させる」
一ノ瀬が頷きながら追加する。「じゃあ俺は、公安の予算書や物資記録の不審点を継続して追います。火に関係しそうな器具、薬品、交通費まで見ますよ。あと、裏ルートの情報屋にも軽く当たってみます」
「俺は」水野が少し口調を強めて言う。「尾崎さんと組んで、物理的に怪しい場所を張ります。人の動きやトラックの出入り、変わった送電や出入りカードの記録――全部拾ってみせます」
尾崎は、静かに頷いた。
「よし。……宮島は次で“終わらせる”つもりだ。今までの証拠すべてを、痕跡ごと消そうとする。だが――俺たちは“終わらせない”。」
「1週間後、奴が燃やそうとする“真実”の前に立ちはだかる。それが俺たちの仕事だ」
それぞれが頷き、立ち上がる。
1週間後に迫る決戦へ向けて、特別捜査班が静かに、そして着実に動き出した。
尾崎達は廃倉庫の前で立ち止まり、足元のコンクリートに目を落とした。
「……まさかとは思ったが、本当に来て正解だったかもしれないな」
隣にいた水野が、小さく頷く。「森山さん、何か掴んでたんですか?」
尾崎はコートのポケットからスマホを取り出し、ロックを外して一通のメッセージを見せた。
《送電パターンと出入り記録に異常あり。場所は××区の廃工場群。尾崎さん、確かめてくれ》
「森山の直感は鋭い。公安の資金流れを調べてる最中に、この場所だけ不自然にデータが“薄い”って言ってきた」
「確かに……この辺りだけ、警備ログも防犯カメラも空白が多いですね」
「それにな——」
尾崎は倉庫裏の送電パネルに手を伸ばし、慎重にふたを開ける。
中の配線が、思った以上に新しく、丁寧に保守されていることに、水野が目を見開いた。
「電気、生きてる……?」
「全部じゃない。照明系統だけ通してあるな。誰かが“夜に何かを確認できるよう”にしたってことだ」
「……じゃあ、やっぱりここで何かが?」
尾崎は無言でスマホを操作し、公安のIDカード出入り記録を一ノ瀬から取得。スクロールして、指を止めた。
「いた……公安の部下がここにアクセスしてる。ログの日付、今月に入って3回。時間はすべて深夜0時台だ」
風が倉庫の隙間を抜けて、錆びた鉄骨がカン、と音を立てた。
尾崎は眉間を寄せ、鋭い目を倉庫へと向けた。
「森山が言ってた通りだ。何かがここで“始まっている”。そして、燃やされる準備も——」
水野が緊張した面持ちで尋ねる。
「どうします?」
尾崎は小さく息をついて、前を見据えたまま答えた。
「俺たちが先に“その手”を読む。よし、戻って報告、突入計画立てるぞ」
倉庫群に沈む夕陽のなか、2人の影が長く伸びていた——。
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