郡上八幡で出会った君は「好き」がいっぱい

結 励琉

第1話 いきなり女の子に声をかけられた

高校1年の夏休みももうすぐ終わろうとしている。


 この夏休みは本当に苦労した高校受験から解放され、まだ大学受験は考えなくていい、気楽な時期だ。そのはずだ。


 親の帰省について行って、新潟県のおじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行った。

 クラスの友人と、もちろんというか、悲しくもというか、男だけで知多半島にある海水浴場に遊びに行った。

 宿題も、なんとか目途を付けた。


 それなりに充実した夏休みを過ごしたと思う。


 でも、高校1年の夏休みって、もうちょっと何かあってもよいのではないかな。

 例えば、彼女のひとりでもできた、とか。

 彼女でなくても、彼女未満お友達以上ができた、とか。


 でも、友人たちの中でも彼女持ちはほとんどいなく、そんなのは漫画やラノベの中のことだと思っている。思うようにしている。


 なので、郡上八幡という街を訪れようと思ったのは、そんな出会いのなかった夏休みで、最後のワンチャンスを求めてということでは決してない。


 高校生という、ある程度ひとりで旅をできることになった身分になったからだ。

 そうだってば。


 郡上八幡という街は、水がきれいなことで有名で、街中に水路が流れているそうだ。  

 残暑が厳しいこの夏の最後に、ひとり旅をしようと思い立ったときに、頭に浮かんだんだ。

 僕が住んでいる名古屋から日帰りで行けるし、前から乗ってみたかった長良川鉄道にも乗れる。


 僕はまあ、鉄道ファンというほど鉄道に詳しくはないが、鉄道に乗るのは好きだ。

 長良川鉄道に乗るには、名古屋からだと東海道本線で岐阜駅に出て、そこから高山本線に乗り替えて、始発駅の美濃太田駅に向かうことになる。


 美濃太田駅のある美濃加茂市は、アニメ化もされたラノベ「のうりん」の舞台になったところだ。

 長良川鉄道は「のうりん」にも出てくる。主人公たちが長良川鉄道に乗って里帰りするシーンがあるのだ。


 そんな訳で、僕は八月下旬のある日、美濃太田駅のホームに降り立った。

 JRの改札を出て左側に、長良川鉄道の乗り場がある。


 階段を下りればそこに改札口が・・・なかった。いきなりホームだ。列車もすでに停まっている。目の前に切符売り場があるので、そこで切符を買えばいいのかな。

 さて、郡上八幡まではいくらだろう。


「ねえ君、どこまで行くの?」

 いきなり女の子に声をかけられた。僕と同い年くらいの、ショートカットで、かなりしっかりした感じの女の子。僕が戸惑っているように見えたのかな。

 髪の毛に小さなスイカが付いているけど、アクセサリーなのだろうか。


「あの・・・郡上八幡までです」

「今日中に往復?」

「そ、そうです」


 情けないことに、ちょっと口ごもってしまった。

 女の子に耐性はあんまりないからね。


「そうしたら、1日フリー切符を買うといいわ。郡上八幡往復だと、ほんのちょっとお得だから」

「あ、でも、帰りも長良川鉄道とは決めていないんで。時間によっては高速バスでもいいかなと」


「高速バス?だめよそんなの。バスなんてどこでも乗れるでしょ。長良川鉄道はここしか乗れないのよ。本当は終点の北濃まで乗ってほしいけど」

「いや、さすがに北濃までは」


「そうね。北濃まで行って戻ってくると、郡上八幡を見る時間が少なくなるわね。この列車だと、郡上八幡着は11時18分。北濃まで行って折り返すと、郡上八幡着は午後の1時25分。さすがに郡上八幡滞在が2時間減るのは厳しいわね」

 

 え、この子は何を言い出したんだ。


「郡上八幡は初めて?」

「そうです」

「ならば今日は郡上八幡往復でいいわ。1日フリー切符、絶対よ」


 そう言うと、その子は列車に乗り込んでいった。

 なんでこの子は僕の日程を決めようとするのだろう。

 というか、なんでダイヤがすらすらと口から出るんだろう。

 

 詳しいというより、マニアって感じだ。

 僕も列車に乗るのは好きだから行きは長良川鉄道にしたいけど、帰りの選択肢は残しておこうと思ったんだけど。


 でも、僕は仰せのとおり、僕は切符売り場で1日フリー切符を買った。

 確かに長良川鉄道を十分に楽しむためには、この子の言うとおり、帰りも長良川鉄道乗った方がいいかもしれない。


 ちなみに、切符売り場で聞いたら、1日フリー切符は2,700円。郡上八幡往復だと2,760円だから、60円お得だ。

 高校生には60円は貴重だ。


 列車に乗る前に、車両をじっくり見て回った。じっくりと言っても2両編成なのですぐに見終わってしまう。

 車両はぶどう色という塗装。先頭の車両の前面に「303」という数字がある。

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