Well-being (旧)

トンヌラ

序章 : なるべく小さな幸せと、なるべく小さな不幸せ

 生まれたときからひとりぼっちで過ごしていたら、いつしか世間知らずな価値観が形成されていた。


…………保険だ。本当はいつだって自分が正しいと思っていた。怖かった。否定されるのが怖かった。

 何という事がない普通の生まれを持つ子供だった。優しい、愛情のある両親の元に生まれた。二人とも僕が十五歳のときに“崩壊”に巻き込まれて死んだ。


 なんでひとりぼっちになったんだろう。僕は今更ながら考える。人を傷つけるのが怖かったから? 人に傷つけられるのが怖かったから?

 分からない。性格なんてのは複雑に、そして偶然に決まるもんだ。そして、一度決まったらなかなか抜け出せない。


 数日前に引っ越してきたばかりの、小さな丘の上にある我が家の小窓から景色を眺める。遠くに見える海が青かった。噴水広場のベンチでカップルがにこやかに語り合っていた。

 ……やっぱり僕は情景描写が苦手だ。内面的に生きすぎたせいか?


 酒場の近くで昼間から酔っ払った若者二人が喧嘩をしていた。枝は伸びすぎていない――少なくとも、僕が剪定する必要はないと判断した。というより、僕はもうあのケンカを止められるかすら怪しいほどの、ただの人間であった。


「ありがとう、コンフォート。」僕は今の世界を眺めながら呟いた。

「今更だが、あれに名前をつけるなんてやっぱオマエイカれてるぜ…」3日前に完成したデュアル修正版第二モデルが水を差した。

「君だって機械だろうが。」

「……」デュアルは黙りこんだ。プロンプトの入力が甘かったか……そういえばデュアルに自分の正体について考察させたことはなかったな。


 もちろん世界には、いまだ不合理や災厄が蔓延っている。気分の浮き沈みだってある。望まない人生を送る人だって沢山いる。

「でもさ、ある程度完璧じゃない世界ほど、君にとっては美しいだろう?」なんて誤魔化したら、昔の――善良な、あまりに善良な――僕は怒るだろうか?

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