未来人の考古学
なぁりー
第1話はじめに
記録を残すことは、学者の責務である。ゆえに、私はこれを書き始める。
まず初めに、この手記を記すに至った「はえー」となる話を述べておきたい。
タイムマシンの開発に、我々は辛うじて成功した。
とはいえ、それは人間が搭乗し、自在に時を往来できるような完成度には、まだほど遠い。
当面は、無人機による過去への探査を試みることとなった。
最初に送り込まれた無人機は、無惨な姿で帰還した。
調査の結果、当時存在していた「人間」という生物が、相応の知能と器用さを持ち合わせており、機体を分解しようと試みた形跡が認められた。
我々の技術を容易に察知し、対応しうる存在であったことは、衝撃に値した。
一回目の失敗を受け、二回目に向けた会議が開かれた。
まず挙がったのは、無人機のサイズを縮小し、目立たぬ存在とする案である。
調査の過程で、「蚊」と呼ばれる小型の吸血性昆虫が、様々な生物の周囲を自由に飛び回っていることが判明していた。
これを模倣すれば、自然な形で接近・観察が可能であると判断された。
さらに好都合なことに、この「蚊」は生物の血液を糧としていたため、接近行動そのものに違和感を持たれにくい。
我々にとって理想的なカモフラージュ対象であった。
しかし、会議がまとまりかけた段階で、新たな問題が指摘された。
人間という生物は、自らを吸血する「蚊」に対し、即座に打撃を加える習性を持っていたのである。
素手で「潰す」という、極めて原始的かつ攻撃的な行動で対応していた。
この特性を軽視するわけにはいかなかった。
なんとも野蛮な生物がいたものだ。
検討の結果、「蚊」と完全に同じ外見を模倣するのではなく、若干サイズと肉厚を増すことに決定した。
また、さらなる防衛策として、当時人間が忌避していた「排泄物」、すなわち糞便の周囲を飛行・着陸ポイントとし、直接接触させる戦術が採用された。
これにより、わざわざ素手で接触を試みる個体は著しく減少するだろうと予測されたのである。
かくして設計はまとまり、試作機一機を過去へ送り込んだ。
結果は成功であった。
無事に帰還した探査機の記録は、完全とは言えないながらも、貴重な映像と音声を我々にもたらした。
この成果を受け、上層部は大量生産と大量投入を即座に決定した。
これから、何十万機もの探査機が、過去の膨大な情報を回収してくれることとなろう。
画像・音声データの質は未だ十分とは言えない。
しかし、ここから先は我々考古学者の領分である。
粗雑な断片を紡ぎ、当時の世界を復元する作業が始まるのだ。
次回以降、無人探査機が持ち帰った貴重なデータを基に、我々の考察を逐一記していく所存である。
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