第35話 訪問

 昨日、祐希の姉の凛がいきなり家に押しかけてきた。その理由を聞いてみると、「自分のことを振ったから」だとか。それに困惑しながらも対応しているが、衝撃の一言が飛び出す。「多分、祐希は君に告白しようとしている」。


 まず、どういう関係なのか。祐希と凛は姉弟関係。この貞操逆転世界の構造上、同じ種族の異性姉妹とは恋愛関係――果ては結婚――に至ることが推奨されている。彼らは守られるべき存在であり、ハーレムの中を統括できる存在がいることが大事だからだ。


 でも、それを祐希は拒んだ。自身の恋愛感情を天秤にかけた。彼自身も多少幼く、身勝手な判断ではあったが……何はともあれだ。ともかく、そんなところで奏音は定期テスト祝勝会と題して彼の家に呼ばれたのだ。




 奏音が祐希の家に呼ばれていたのは昼過ぎのことだった。白を基調とした清楚さを感じさせるファッションは、彼女の茶色がかった髪によく映える。髪は肩のあたりまでストレートに伸ばされていて、頬を少し赤らめている。


 彼の家にお邪魔するのは初めてではない。小学生の時は"仲良しの友達"というポジションで来たことがある。


 確か、彼の両親は忙しそうにしているらしく、あまり帰ってくることがなかった。そこで寂しそうにしている彼を奏音は励ましたかった。


 今思えば、後ろには姉の鋭い目があったのかもしれないが、当時は気にせず無邪気に彼と遊んでいた。


「ふふ……うん……大丈夫」


 彼の家の前まで来た。伸ばされた髪を少し指で掬って、くるくると遊ぶ。別に何の意味もないが、何かしていないと気が狂いそうだった。何か考えていないと、すぐにこの場から逃げ出しそうになっていた。


「頑張れ、私……」


 当初は、自分は今日振られるものだと思っていた。でも、少し光明が差している。姉の言うことをどこまで信用していいか分からないが、確かに彼女は「今日、祐希が私に告白しようとしている」と言ったのだ。


「もし。もしだよ!? 本当に告白してきたとしたら――」


 それ以上のことを言うのはやめた。何かが途切れてしまう気がしたからだ。でも奏音の胸の内にあったのはもっと別のことだった。


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「……いらっしゃい」


 インターフォンを押して奏音を出迎えてくれたのは姉だった。祐希の姉、春川凛。彼女と会うのはほんの二十時間ぶりくらいだろうか。


 昨日見た彼女は、完全に情緒を失っていた。顔を歪めながら「どうか祐希とは付き合わないで欲しい」と懇願していた。


 彼女の気持ちも分からないことはない。というか、痛いほどに分かる。でも本当に彼が自分のことを選んでくれるなら、という願望が先行して上手く正常に思考ができていない気もする。



「なんというか、昨日はごめんね」

 

 凛の表情は少し強張っているように感じられたが、取り乱しそうな雰囲気はすっかり消え失せていた。それで奏音は少しだけ緊張が取れた気もする。


 祐希に話していることを聞かれたくないのか、凛はすっかり小声で。それにつられて自身の声量も小さくなっていることがわかった。


「凛さんごめんなさい、昨日は私も。何も考えず無碍に……」

「いい。悪いのは私だから。いくらなんでも、あなたに当たるのは間違ってた」


 そう話している凛の声色はやけに暗い。


 

「あ、奏音」

 


 意識外のところから急に声がして、胸が痛むくらいに飛び上がった。その声を聞いて、これまで考えていたことが嘘みたいに吹き飛ばされる。


「なんでそんな所突っ立ってんのさ。上がってよ」


 そう祐希が急かすと、奏音も急いで家へと上がっていった。彼の自室の2階へと誘導されていく。


 2階へと上がろうとする時に、凛がぽんっと背中を叩いてきた。叩くと言うより、シバいてきたといえばいいか。とにかく少し強くて痛かった。その痛みで思い出した。自分がこの家に入る前に何を考えていたのか。



「この辺、適当にどこでも座っていいから」

 

 祐希の部屋に入るとクッションと共に座ってくれと勧められてそれに従うものの、奏音が考えていたことは全く別のことだった。


 本当に自分が告白されるなら、絶対にということ。男の子から告白させるなんて女としての矜持に反する。


 だから、絶対に自分が告白してやるんだ。


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 丁寧に整えられたベッド、整頓された教科書、部屋の隅に大事に保管されているバドミントンのラケット。


 祐希の部屋はとても落ち着いた雰囲気がしていて、むしろ生活感がないというか。男の子だとしても、もう少し物が散らかってた方が微笑ましさがあるのではないか。


 それか、自分が来るから片付けたのか。そう考えると笑みが溢れる。

  

「スマブラでもやろうぜ、スマブラ」

「……っ」


 ジュースとコップを持ってきながら祐希が隣に座ってきた。彼の体が一気に近づいてきて自分の顔が赤くなるのを自覚する。彼の顔を見れない。ふるふると震えてしまっていた奏音の前にコントローラーが置かれた。


「あ、ありがとう」


 また意味もなく髪をくるくると手でいじりながら、「まあ」「うんうん」みたいな何の意味もない相槌を吐く。ここに心あらずといった様子だ。


「あんたとゲームなんて久しぶりな……まあ。絶対負けないから」

「言ったな? お前」


 楽しそうな声色の祐希が横から聞こえる。祐希も、横の奏音を直視できていないという点では同じだった。


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あとがき


久々の更新だったので最初部に軽いあらすじを挿入しました。


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男女比1:500の貞操逆転世界で、愛が激重のファンタジーっ娘たちにハーレム作られて囲まれてます!! シノザキ悠 @sinozayu

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