第11話『最後の笛が鳴るまで』


 残り時間はわずか3分。  青桜が1点リードしたとはいえ、黎明学院の猛攻は止まらない。


 スタジアム中が固唾を飲んで見守る中、空たちは必死にボールを追っていた。


「押し返せ! ラインを上げろ!」  翼が後方から声を張り上げる。


 黎明の蓮は、前線でタイミングを見計らっていた。  彼は、ただのエースではない。  ピッチ全体を読み、最も効果的な一手を打てる司令塔でもある。


「ここだ」


 蓮の右足から繰り出されたピンポイントクロスが、青桜のゴール前に吸い込まれる。


「来るぞ!」


 空が叫ぶが、相手FWの高さに、DFたちが押し込まれる。


 そして――


 頭一つ分抜け出た黎明のエースFWがヘディングシュート!


 空気が一瞬、止まった。


 だが――


「止めたっ!」


 青桜のゴールキーパー・大地が、信じられない反応でセーブ!!


 弾かれたボールはペナルティエリア内を転がる。


「クリアだ!!」


 翔真がすかさず大きく蹴り出した。


 だが、まだ終わらない。


 黎明はセカンドボールを拾い、再び押し寄せる。


 空は必死で戻る。足が、重い。それでも―― (ここで、止める!!)


 蓮が、最後の勝負を仕掛けてきた。  体を預けるようなフェイント、わずかにズラした重心。  その巧みな技に、空も一瞬、体勢を崩される。


 しかし空は、食らいつく。


「まだ、だっ!」


 右足を振りぬこうとする蓮の前に、空が滑り込んだ。  間一髪、ボールに触れる。


 ボールはサイドラインを割った。


 ラインズマンが旗を上げる――青桜ボールだ!!


 歓声と悲鳴が入り混じる中、空は立ち上がる。


 汗まみれの顔に、笑みを浮かべて。


「ナイス、空!」 「あと少しだ、粘れ!」


 監督が、交代を指示する。


「空、前線へ上がれ! ここからはカウンター狙いだ!」


「了解です!!」


 ラストプレーに向けて、青桜は布陣を整え直した。


 そして、スローインから再開。


 翼がロングスローを放り込む。


 空は前線へ走る。  すでに脚は棒のようだ。  だが心は、まだ折れていない。


(蓮……俺たちは、ここで勝つんだ!)


 蓮もまた、空を睨んで走る。  二人の間に、過去も、現在も、未来も交錯する。


 ――その時だった。


 空が、蓮のマークをかわし、抜け出した。


 ボールが来る!


 空は体勢を整え、最後のシュートを放つ!!


 空気を切り裂くような一撃。


 しかし……ゴールポスト直撃!!


「くっ……!!」


 跳ね返ったボールを、黎明のディフェンダーが大きく蹴り出す。


 そして、その瞬間だった。


 ピィィィーーーッ!!


 試合終了のホイッスルが、スタジアムに響き渡る。


 青桜学園、勝利!!


 ベンチから、選手たちが一斉に飛び出してきた。  空を中心に、みんなが抱き合う。


「やった……! やったぞ、空!」 「最高だ、みんな!」


 空は、蓮に向き直った。


 蓮は、静かに手を差し出す。


「完敗だよ。……次は、絶対負けないからな」


 空は、その手を強く握り返した。


「望むところだ。また、戦おうぜ」


 青空の下で交わされる、ライバルたちの固い約束。


 こうして、青桜学園サッカー部の新たな伝説が始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『青嵐のフィールド』 優貴 @snowking0925

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ