第10話『風を超えて』



 後半も残り10分を切った。  ピッチ上では、選手たちの疲労が色濃くにじみ出ていた。  それでも、誰一人、足を止めない。


 空は額に滲んだ汗をぬぐうこともせず、前を睨み続けていた。 (まだ、終わらせない。ここからが勝負だ)


 黎明学院の蓮は、空に気づいたように微笑む。


「まだ……やれるよな、空?」


「ああ、もちろんだ!」


 空がボールを持った瞬間、蓮が襲いかかる。  速い。だが空もすでに、蓮の癖を読み始めていた。


 右にフェイント――読まれる。  だが、そこから一瞬のタメを作り、左へ抜ける!


 蓮の足がわずかに空を捉え損ねる。


「行け、空!!」  ベンチから飛ぶ声援。


 空は疾風のごとく左サイドを駆け上がると、ゴール前にクロスを送った!


 翔真が合わせた――が、惜しくもキーパーにキャッチされる。


「クソッ……!」


 すぐさま切り替え、青桜の選手たちは戻る。  黎明学院も攻めの手を緩めない。


 蓮が中盤から鋭いスルーパスを放つ。


「しまった!」


 青桜ディフェンスが一瞬遅れる。  黎明学院のフォワードが抜け出し、シュート体勢に入った。


 だが、その瞬間――


「止めさせねぇっ!」


 翼が全力で戻り、スライディングタックル!!


 ボールだけをクリーンに刈り取る。


「ナイスカバー、翼!!」


 スタジアムが湧き上がる。


 空はすぐさまボールを拾い、カウンターに移る。


「行くぞ、みんな!!」


 青桜の選手たちが連動し、パスがリズムよくつながっていく。


 翔真→翼→空――


 空は、最後の力を振り絞り、蓮を振り切る。


 ゴール前で待つのは、控えめながら闘志を燃やす新星・悠人。


 空は迷わず、悠人へスルーパス!


 悠人、トラップ――シュート!!


 ボールはゴール左上隅へと吸い込まれる――


 ゴォォォオオオール!!


 逆転!!


 青桜、ついにリード!!


 スタジアム中に、青桜コールが響き渡る。


「最高だ、悠人!!」 「やったぞ、空!!」


 空たちは抱き合いながら喜びを爆発させる。


 一方、蓮は、どこか満足げに空を見つめていた。


「これで終わりだと思うなよ、空……」


 残りわずか。  黎明学院の最後の猛攻が、始まろうとしていた。

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