第9話『反撃の狼煙』



 スタジアムに張りつめた空気が、青桜のベンチにも重くのしかかっていた。  黎明学院に1点を先制された前半。  その1点以上に、選手たちの心に響いていたのは、風間蓮という男の存在だった。


「……あいつ、やっぱ本物だ」  翔真が呟くと、翼も汗をぬぐいながら頷いた。 「たしかに、動きに一切のムダがない。まるで先の動きを知ってるみたいだ……」


 そんな中、空は俯いたまま黙っていた。


(蓮……あいつは昔のままじゃない。いや、進化してる) (でも、俺だって……!)


 監督の言葉が選手たちに飛ぶ。 「後半は中盤でのプレスを強める! 翼、翔真、ボランチの位置からコンパクトに! 空、蓮との距離を縮めろ。お前のマークだ!」


「……わかりました」  空の瞳に、ふたたび炎が灯る。


 そして後半戦。


 ピッチに戻った11人の青桜メンバーは、表情が変わっていた。  恐れよりも、闘志。焦りよりも、集中。


 黎明のキックオフから始まった後半戦。


 すぐに中盤での激しいボールの奪い合いが展開される。


「翔真! こっち!」  翼が声を上げると、翔真が迷わずショートパス。


「ナイス!」


 翼は受けると、すぐさま空へスルーパスを放った。


「来い、空っ!」


 蓮が、空の前に立ちはだかる。  だが空は、瞬時に体をひねり、フェイント。  左に誘っておいて、右足でタッチ。


「……甘い!」


 蓮は読みきっていた。  空の足元からボールが消える――そう思ったその瞬間。


 空のスパイクが、芝を蹴った。


 踏ん張った――?


 そして体勢を戻し、すかさず横パス。  蓮の目がわずかに見開かれる。


 「翼っ!!」


 翼が受け、すぐにダイレクトシュート。  ボールは地を這うようにゴール右隅へ――


 ゴォォォオオオール!!


 青桜、同点!!


 スタジアムが歓声に包まれる。


「やったあああ!!」 「これだよ、これが青桜だ!!」


 空は拳を握ったまま、蓮を見る。


 蓮は……笑っていた。


「へぇ……成長したな、空」


「お前にだけは……負けられないんだよ」


 空と蓮の視線がぶつかり合う。  その一瞬で、ピッチ上の空気がまた変わった。


 残り15分。  勝利の女神がどちらに微笑むか――


 そして運命の時間が動き出す――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る