第8話『知られざる強敵』
開幕戦勝利から一夜明け――
青桜学園のサッカー部室には、静かな高揚感が満ちていた。
「空、ナイスゴールだったな!」
「いや、翔真のスルーパスが最高だった!」
「お前ら、ちょっとは控えろ、次の試合が控えてんだぞ」
翼の現実的なツッコミが飛ぶが、誰もがうれしそうに笑っている。
それは、"初めての勝利"という、確かな絆を刻んだ証だった。
しかし――
部室のドアが、**バンッ!**と開いた。
「おい、これ……見たか?」
入ってきたのはマネージャーの早乙女紗良。タブレットを手にしていた。
「次の対戦相手、決まったわよ」
画面に映されたチーム名を見た瞬間、空の笑顔が消える。
「……えっ」
そこに書かれていたのは――
「黎明(れいめい)学院中学校」
「黎明……だと……?」
空が小さく呟くと、隣にいた翔真と翼の表情も変わる。
「ウソだろ……いきなり、あいつらと当たるのかよ……」
黎明学院。
それは、全国常連の強豪。
今年の新入生世代は特に異常なほど強く、**『黄金世代』**と呼ばれているという噂さえあった。
「ちょ、待て。しかも――」
紗良が画面をスクロールさせる。
「10番、"風間 蓮"……?」
その名前を聞いた瞬間、空は心臓が凍りつく感覚を覚えた。
「……知ってるのか、空?」
「……ああ。アイツは……俺の――」
◆
試合前日。
空は一人、グラウンドに立っていた。
夜のグラウンド。
照明の光が、人工芝に落ちる。
ボールを足元に置き、空は何度もトラップとパスを繰り返す。
(風間 蓮――)
あの日。
中学入学前の全国ジュニア大会で、空は蓮に完膚なきまでに叩きのめされた。
パスを読まれ、シュートを止められ、心まで折られた。
以来、蓮は空の記憶に棲みついていた。
「……あれから、ずっと、忘れたことはなかった」
ボールを止め、空は夜空を見上げた。
もう逃げない。
もう、諦めない。
今度こそ――蓮に勝つ。
◆
そして、試合当日。
黎明学院との2回戦が幕を開ける。
会場は、前回よりもさらに大きなスタジアム。
客席には、数百人の観客が集まり、報道カメラも並んでいる。
「うっわ……なんだよこの注目度……」
翔真がゴクリと唾を飲む。
そんな中――
ピッチに姿を現した一人の選手に、観客がざわめいた。
黎明学院・背番号10、風間 蓮(かざま・れん)
切り揃えられた漆黒の髪。
鋭く、研ぎ澄まされた目。
まるでプロ選手のような、静かすぎるオーラ。
そして。
その蓮の目が、まっすぐに空をとらえた。
「…………」
無言のまま、少しだけ口角を上げる。
――挑発的な、笑み。
空の背中に、ゾクッとした冷気が走った。
(見てる……完全に、俺を……)
蓮は、空を覚えていた。
あの時、蹴散らした「雑魚」ではなく、
今、再び「相手」として認識している。
◆
キックオフのホイッスルが鳴った。
試合開始。
黎明学院のボール回しは、異常だった。
「……な、何だこの正確さ……!」
一つ一つのパスが、針の穴を通すように届く。
止めようと体を寄せると、次のパスはもう違う方向へ飛んでいた。
まるで、意思を持ったように――
**「繋がっている」**のだ。
「空、やべぇ! 来るぞ!」
翔真の叫びとともに、10番・蓮が一気に加速する。
足元から、離さない。
まるで吸いついているようなボールタッチ。
「止め――」
空が立ちはだかる。
が、蓮はわずかに足をひねり――
抜いた。
空の足の間をボールが通る。
パスではない、シュートコースでもない。
ただの「挑発」だった。
振り返ると、蓮の背中が遠ざかっていた。
「っくそ……!!」
悔しさが、胸を焼いた。
◆
前半、黎明学院に先制を許す。
スコアは0-1。
ベンチに戻った空は、唇を噛みしめた。
(まだ……まだだ)
(俺たちは、ここで終わらない)
試合はまだ終わっていない。
後半。
青桜学園の反撃が、始まる――。
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