第7話『開幕戦、火花散る!』



 


 青空に、夏の太陽がぎらぎらと輝いていた。


 蝉の声がうるさいくらい響く中、

 ――県予選、開幕戦の日が、ついにやってきた。


 


 空(そら)たちは、会場となる総合運動場に到着した。

 ピッチに広がる芝生の匂い。

 白線でくっきりと区切られたコート。

 観客席には、すでにたくさんの応援団が集まっている。


 


 空の胸が、ドクンドクンとうるさく鳴った。


(……来たぞ)


 


「よっしゃあああああ!!!」


 いきなり翔真が叫んだ。


「燃えてきたーーー!!!」


 


 「バカうるせぇ!」と翼にどつかれながらも、翔真はニヤニヤしている。


 


 その光景に、空も笑った。


 


(そうだ、俺たちは――)


 


 昨日、泥だらけになってボールを追いかけた。

 声を張り上げて、支え合った。

 ようやく、"チーム"になった。


 


 負けるわけにはいかない。


 


 空は、仲間たちに声をかけた。


 


「いこう、みんな!」


「おう!!!」


 



 


 開幕戦の相手は、翠峰(すいほう)中学校。

 堅実な守備を武器にする、県内屈指のディフェンシブチームだ。


 


 空たちは円陣を組む。


 


「全員で、前へ!!」


「「「おう!!!」」」


 


 キックオフのホイッスルが鳴った。


 


 試合が、始まる――。


 



 


 序盤から、試合は激しかった。


 


「翔真、右!」


「翼、カバー!」


 


 空の指示に応えながら、みんなで連動する。


 


 パス、パス、ワンタッチで繋いで、前へ。

 だが、翠峰の守備も堅い。


 


「くっ……!」


 


 空がドリブルで切り裂こうとするが、相手DFに身体をぶつけられ、コースを消される。


 


 前に進めない。


 


 何度もトライするが、壁のようなディフェンスに跳ね返される。


 


(すげえ……)


 


 空は心の中で唸った。


 


(こいつら、一人一人の寄せが速い……!)


 


 だけど、負けない。


 絶対に、抜ける。


 



 


 試合時間が進む中、少しずつ、空たちはチャンスを作り始めた。


 


 翔真が中盤で身体を張り、ボールをキープ。


 


「翼、行け!!」


「任せろ!!」


 


 翼が裏へ走り出す。


 翔真のスルーパス。


 それに翼がギリギリ追いつく!


 


 ゴール前!


 シュート体勢!


 


 ――だが。


 


 ドガッ!


 


 翠峰のディフェンダーが、体ごとぶつかってきた。


 


「っくそ……!」


 翼がバランスを崩してシュートミス。


 ボールはゴール横へ外れていった。


 


 悔しそうに、翼が地面を叩く。


 


「ドンマイ、ドンマイ!」


 空が駆け寄って声をかける。


 


「次、決めようぜ!」


「……ああ!」


 


 立ち上がった翼の目が、ぎらぎらと燃えていた。


 



 


 そして、前半終了。


 


 スコアは――0-0。


 


 両チーム無得点のまま、ハーフタイムへ突入した。


 



 


 ハーフタイム、控えベンチ。


 


 みんな、汗びっしょりになりながら、水をがぶ飲みしている。


 


 そんな中、空が口を開いた。


 


「……なあ、もっとシンプルにいかねえか?」


 


 翔真がタオルで顔を拭きながら振り向く。


「シンプル?」


 


 空は言った。


「ドリブルで崩すんじゃなくて、ワンツーとか、フリックで一気に抜けよう」


 


 悠人も頷いた。


「確かに。今のままだと、ドリブル突破、全部止められてる」


 


 翼が拳を握る。


「やろう。みんなで、崩そう!」


 


 全員の顔に、決意が宿る。


 


「後半、絶対、点取るぞ!」


「おう!!」


 



 


 そして、後半キックオフ。


 


 空たちは、戦術を切り替えた。


 


 スピードを活かした、ショートパス&ワンツー。


 


「翔真、リターン!」


「ナイス!」


 


 空が翔真に預けて、すぐ前に走り込む。

 翔真がダイレクトでボールを戻す。


 そのまま空が受けて――


 


 今度は翼にワンタッチパス!


 


 翼が走る!


 


 翠峰のDFが慌てて対応に来る!


 


 しかし――


 


 「今だ、翼!」


 


 翼がすかさず、空に戻す!


 


 空がフリー!


 


 そして、ゴール前!


 


 キーパーと一対一!


 


(決める!!)


 


 空は身体を少し左に傾ける。


 キーパーが釣られる!


 


 空は冷静に、逆サイドへ――


 


 ズバァアアアアアン!!


 


 ネットが、大きく揺れた。


 


「うおおおおおお!!!!!」


 


 ゴール!!!


 


 ついに先制点!!!


 


 仲間たちが、空に駆け寄り、抱きついた!


 


「やった、空!!」


「ナイスゴール!!」


 


 空は笑った。


 心の底から、笑った。


 


(これが……)


 


(みんなで取った、ゴールだ!!)


 


 



 


 残り時間も、全員で走り抜いた。


 泥だらけになりながら、全力で守りきった。


 


 そして――


 


 試合終了のホイッスルが、グラウンドに響いた。


 


 1-0。


 


 空たちは、開幕戦、勝利をつかんだ。


 

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