第5話『反撃開始――勝利をつかめ!』
再開の笛が鳴った。
湿った空気を割って、青嵐が一斉に駆け出す。
「いくぞぉぉぉ!!」
翔真が声を張り上げた。
悠人も翼も、空も、それに呼応するように走る。
それは、点差以上に「ここから巻き返してやる」という、魂の咆哮だった。
グラウンドを包む雨音。
シューズがぬかるみを蹴る音。
胸を打つ鼓動。
全てが、熱を帯びて加速していく。
◆
成陵の選手たちも、焦りを隠しきれなくなっていた。
彼らはプライドを持つ強豪校だ。
無名の青嵐に、一矢報いられたこと自体が、彼らの心を乱していた。
「落ち着け! 焦るな!」
成陵のキャプテンが叫ぶ。
だが、その声も雨にかき消される。
――バチィッ!
空が、成陵のパスをカットした。
「翼っ!!」
すぐさま左サイドの翼へ。
翼はドリブルで相手DFをかわし、センタリングの体勢に入る。
だが、すぐに2人、成陵のDFが寄せる。
雨でボールが滑る。ミスれば一気にカウンターを食らう。
(どうする……?)
一瞬、迷いがよぎる。
そのとき――
「打て、翼!!」
空の声が飛んできた。
「っ、あああああ!!」
翼は振り抜いた。
ズドォォォォォ――ッ!
低く、速いシュート。
成陵のキーパーが必死に飛びつくが、滑ったボールはその手を弾き、ゴールに吸い込まれた!
「よっしゃあああああ!!!」
「2点目だあああああ!!!」
ベンチも、グラウンドも、爆発するような歓声。
2-3。
ついに、あと1点差!
◆
勢いは完全に青嵐に傾いていた。
陽翔の指示がグラウンドを飛び交う。
「ライン上げろ! 押し上げろ!!」
「空! 中盤拾え!」
「悠人! もっと前にいけ!!」
空も、翔真も、翼も、死にものぐるいだった。
雨で体力は奪われ、呼吸は荒くなる。
それでも――目の奥には、誰一人、諦めの色などなかった。
そして、ついにその時が訪れる。
成陵のセンターバックが、焦りからミスパスを出す。
空が、猛然と飛び込む。
タックル――成功!
「チャンス!!」
空は即座にドリブルを開始した。
ペナルティエリア手前。
1人、2人、3人――
雨に濡れたグラウンドを切り裂くように、空は成陵DFを抜き去る。
「来るぞっ、止めろ!!」
成陵側が叫ぶ。
だが、空は止まらない。
最後のDFがスライディングを仕掛けてきた瞬間――
空はワンタッチ、左へ。
スパイクの裏で、ボールを滑らせる。
華麗なフットワーク。
ギリギリで交わす。
目の前、ゴールまであと数メートル。
空は、右足を振り抜いた――!
ズバァァァァン!!
ゴール左隅。
完璧な一撃。
「決まったああああああああ!!!!」
スコア、3-3。
ついに追いついた。
◆
倒れ込む空。
駆け寄る仲間たち。
翔真が、空を引き起こして、抱きしめるように叩いた。
「サイッコーだよ、空!!」
悠人も、翼も、陽翔も、全員が叫んでいた。
雨の中。
泥だらけの顔に、涙と笑顔が混ざる。
「まだ……まだ勝てる!」
空が言う。
その声は、弱々しくも、確かな強さを持っていた。
◆
残り5分。
勝負は振り出しに戻った。
だが、青嵐には、疲労以上に確かな自信が宿っていた。
(俺たちは、ここまで来た……!)
ラストワンプレー。
成陵のコーナーキック。
ピッチ上、全員が緊張する。
キッカーが助走を取った――。
ボールが放たれる。
高い弧を描いて、青嵐ゴールへ向かう!
「絶対、止める!!」
陽翔が飛んだ!
――バシィィィィ!!
陽翔のパンチング!
跳ね返ったボールは、翼の足元に転がる。
「空っ!」
翼が全力で空へパス!
空は、たった一人、全速力で前へ駆ける。
背後から成陵の選手たちが追いすがる。
ラストスプリント。
最後の力を振り絞って、空は、前へ――前へ――!
「いけえええええええ!!」
ゴール前、飛び出してきたキーパー。
空は、右に小さくフェイントを入れる。
キーパーが釣られた!
左にボールを転がし、無人のゴールへ――
ゴロゴロ、ゴロゴロ――
ボールは、ゆっくり、確実に、ゴールラインを越えた。
笛が鳴った。
「勝ったあああああああああああ!!」
青嵐サッカー部、奇跡の逆転勝利!
雨の中、抱き合い、泣き叫ぶメンバーたち。
空は、泥だらけになりながら、空を仰いだ。
――空は、泣いていた。
嬉しくて。
悔しくて。
全てをぶつけられたことが、ただ、ただ嬉しくて。
こうして、
青嵐学園サッカー部の伝説が、ここから始まった。
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