第1章『風を抱くグラウンド』:第1話『ボログラウンドと熱血キャプテン』

青嵐学園サッカー部のグラウンドは、草がところどころ生えた土のフィールドだった。

 ラインも歪んでいて、遠くのゴールネットは破れている。部室はプレハブ。ドアはギィギィと音を立てて開いた。


「……冗談だろ」


 転校初日。風間空は、サッカーバッグを片手にそこに立ち尽くしていた。

 見た目からして、都内の強豪校出身だと一目でわかる。短めの黒髪にクールな目元。制服もピシッとしている。


「おーい! お前が風間か!?」


 遠くから、砂ぼこりを巻き上げて駆けてくる一人の少年がいた。

 日に焼けた肌、赤く染まった髪先、そして信じられないほどの笑顔。彼が、サッカー部主将・大地陽翔だった。


「初めまして! 俺、キャプテンの大地陽翔! よろしくな!」


 がっしりと手を差し出されるも、空は無言で見下ろすだけ。


「……あんたらの部、こんなグラウンドでまともに練習してるのか?」


「うん。毎日! すっげえ走るよ! でもさ、風は気持ちいいし、夕日もキレイなんだぜ?」


「夕日で試合は勝てない」


「ハハ、そりゃそうだ。でもな、"好き"って気持ちは、俺らにはある。勝てないかもだけど、サッカーが好きって気持ちは、誰にも負けてねえよ」


 空はふっと鼻で笑う。

 だがその表情の奥に、わずかな動揺があった。


「それじゃ、明日から一緒に走ろうぜ! ほら、今日は見学でもいいから!」


「……勝手にしろ」


 そう言って、空はベンチに腰を下ろした。

 目を閉じると、耳に響いてくるのは、仲間たちの声。

 「パス!」「シュート打て!」「次、俺だー!」


 ――どこか懐かしい。

 胸の奥が、ほんの少しだけ、熱を帯びた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る