『俺達のグレートなキャンプ18 キャンプファイヤー・ツイストダンス』

海山純平

第18話 キャンプファイヤー・ツイストダンス

俺達のグレートなキャンプ18 キャンプファイヤー・ツイストダンス


「さあ、今夜の目玉イベントの時間だぞ!」

石川は両手を広げ、満面の笑顔でキャンプファイヤーの前に立った。炎が彼の顔を赤く照らし、影を木々に向かって踊らせていた。

「いったい何をやるんだ?」富山は疑いの目を向けながら、折りたたみ椅子に腰を下ろした。「また変なことを始めるんじゃないだろうね?」

「変じゃない!グレートなんだ!」石川は胸を張った。「今夜はキャンプファイヤー・ツイストダンス大会だ!」

「ツイスト?」千葉は目を輝かせた。「あの60年代のダンス?」

「そう!その通り!」石川は千葉の肩を叩いた。「さすが千葉、話が早い!」

富山はため息をついた。「なぜ今さらツイスト?普通のキャンプファイヤーじゃダメなの?」

「普通なんてつまらない!」石川は声を張り上げた。「キャンプの醍醐味は"非日常"だろ?家でもできることをキャンプ場でやるなんて時間の無駄だ!」

「でも、ツイストって...」富山が言いかけると、石川は既にポータブルスピーカーを取り出していた。

「心配するな!道具は全部用意してある!」石川はバックパックから古い衣装を取り出した。「これを着るんだ!」

そこには派手な色のシャツと蝶ネクタイ、女性用にはふわふわのスカートが入っていた。

「マジか...」富山は顔を覆った。「周りのキャンパーに迷惑じゃない?」

「大丈夫だって!」石川は胸を張った。「事前に管理人さんに相談済みだ。このエリアなら音も問題ないって!」

千葉は既に衣装を手に取り、興奮した様子で言った。「これ面白そう!僕、ツイストやったことないけど、覚えるよ!」

「その意気だ!」石川は千葉の背中を叩いた。「さあ、富山も早く着替えろ!」

「いやいや、私は見てるだけでいいから...」

「そんなの許さない!」石川は富山の前にスカートを振った。「青春を取り戻すんだ!」

渋々、富山はスカートを受け取り、テントの中に消えた。


十分後、三人は完全に60年代風の衣装に身を包み、キャンプファイヤーの前に立っていた。

「よーし、音楽スタート!」石川がスピーカーのボタンを押すと、チャック・ベリーの「Let's Twist Again」が流れ始めた。

「さあ、こうやって踊るんだ!」石川は両足を地面につけたまま、腰をくねらせ始めた。手を左右に振りながら、コミカルな表情で踊る。

千葉も真似して踊り始めた。「こう?こんな感じ?」

「そう!その調子!」石川は声を張り上げた。「富山も早く!」

富山は恥ずかしそうに、小さく体を動かし始めた。「こんなの恥ずかしい...」

「恥ずかしくない!グレートだ!」石川は叫び、より激しく踊った。

彼らが踊り始めて数分後、隣のキャンプサイトから中年夫婦が様子を見に来た。

「すみません、何をやってるんですか?」夫が好奇心いっぱいの表情で尋ねた。

「キャンプファイヤー・ツイストダンス大会です!」石川は踊りながら答えた。「よかったら参加しませんか?」

富山は顔を赤くして、「すみません、うるさくて...」と謝ろうとしたが、驚いたことに夫婦は顔を見合わせて笑った。

「懐かしいわ!若い頃によく踊ったのよ!」妻が言った。

「参加していいですか?」夫が尋ねた。

「もちろん!」石川は笑顔で応えた。「衣装も用意してありますよ!」


その夫婦は佐藤さん夫妻と名乗った。70代前半の二人は、若い頃はダンスホールの常連だったという。

「妻と出会ったのもツイストコンテストでしてね」佐藤さんは目を細めながら、石川が用意した派手なジャケットを羽織った。「優勝したんですよ」

「へぇ!すごいですね!」千葉は目を輝かせた。

佐藤さんの妻は富山に近づき、「こう腰を回すのよ」と教えながらスカートをひらめかせた。その動きは若々しく、とても70代とは思えない軽快さだった。

「ちょっと待って、本気で踊るなら...」佐藤さんは自分のキャンプサイトへ戻り、古いレコードプレーヤーとレコードを取り出してきた。「これで踊りましょう!」

「まさか本物のレコード!?」石川は興奮して叫んだ。

佐藤さんはニッコリ笑い、「1960年代の本物のレコードですよ。大事に持ってきてました」と言って、プレーヤーをセットし始めた。


レコードからクラシックなツイスト音楽が流れ始めると、佐藤夫妻の表情が一変した。まるで50年前に若返ったかのように、二人は見事な足さばきでツイストを踊り始めた。

「すごい...」富山は口を開けたまま見つめていた。

石川も千葉も驚きのあまり動きを止めてしまった。

「何をぼーっとしてるんだ、若者たち!」佐藤さんが叫んだ。「さあ、勝負だ!」

その一言で石川の闘志に火がついた。「受けて立ちます!千葉、富山、行くぞ!」

音楽のテンポが上がるにつれ、キャンプファイヤーを囲んだダンスバトルは白熱していった。

佐藤さんは腰を左右に振りながら、床に手をつけて回転するという離れ業を見せた。彼の妻も負けじとスカートをひらめかせ、完璧なステップで応えた。

「すごい...本物だ...」千葉は呟いた。

「負けるわけにはいかない!」石川は汗だくになりながら、より激しく体を動かし始めた。

富山も徐々に恥ずかしさを忘れ、リズムに合わせて体を揺らし始めた。

「そうそう!その調子!」佐藤さんの妻が富山に声をかけた。「もっと腰を低く!腰を回すのよ!」

富山は指示に従い、腰を低く沈めて回転させようとした。「こう?」

「そう!完璧よ!」


時間が経つにつれ、さらに多くのキャンパーが集まってきた。若いカップルや家族連れ、外国人観光客まで、キャンプファイヤーの周りは人で埋め尽くされていた。

「さあ、みんなで一緒に!」石川が叫び、周囲の人々も次々とダンスの輪に加わっていった。

しかし、真の主役は依然として佐藤夫妻だった。二人の息の合ったダンスに、誰もが魅了されていた。

「見てください、あの動きを!」佐藤さんは突然、腰を低く沈めて、まるでリンボーダンスのように体を反らせた。「これが本物のツイストだ!」

「やられた...」石川は息を切らしながら言った。「でも、まだ負けない!」

石川は両手を広げ、足を交互に前後に出しながら、体を大きくねじり始めた。その動きは荒削りながらも、情熱的だった。

「いいねぇ!」佐藤さんが声を上げた。「でも、こうだ!」

彼はさらに複雑なステップを踏み始め、妻と向かい合って互いの周りを回った。

キャンプファイヤーの炎が高く舞い上がり、ダンサーたちの影が巨大に地面に映し出された。

「石川、大丈夫?」千葉が心配そうに尋ねた。石川の顔は汗でびっしょりで、呼吸も荒かった。

「大丈夫...まだまだ...いける...」石川は言葉を切りながらも、踊り続けた。

富山も意外なほど熱心に踊っていた。「意外と楽しい!」彼女は笑顔で言った。

「そうでしょ?」佐藤さんの妻が笑った。「さあ、もっと腰を使って!」

富山は夢中になって腰を振り続けた。彼女の普段の憂いを忘れた表情に、石川と千葉は驚きの視線を交わした。


「さあ、フィナーレだ!」佐藤さんは叫んだ。

レコードのテンポがさらに上がり、周囲の拍手も大きくなった。

「最後は勝負だ!」佐藤さんは石川に挑戦するように言った。「一対一で!」

「受けて立つ!」石川は息を切らしながらも、闘志を燃やした。

キャンプファイヤーを中心に、他の参加者たちは輪になって二人を取り囲んだ。

「いくぞ!」佐藤さんは叫んだ。

年齢を感じさせない俊敏さで、佐藤さんは複雑なステップを踏み始めた。足を交差させ、くるりと回転し、腰を左右に振る。その動きは完璧で、まるでプロのダンサーのようだった。

「すごい...」観客たちは口々に感嘆の声を上げた。

石川も負けじと全力で踊った。彼の動きは佐藤さんほど洗練されてはいなかったが、情熱と勢いは誰にも負けなかった。

「行け、石川!」千葉が叫んだ。

「頑張れ!」富山も応援した。

二人のツイストバトルは5分、10分と続いた。両者とも汗だくになり、息も絶え絶えだったが、やめる気配はなかった。

「まだまだ...若者よ!」佐藤さんは息を切らしながらも、より複雑な動きを見せた。

「負けません...!」石川も限界を超えて踊り続けた。

そして曲が最高潮に達したとき、佐藤さんは最後の決め技を繰り出した。腰を低く沈め、床まで手をつけながら完全な円を描くように回転し、そのまま立ち上がって両手を広げた。

会場からは大歓声が上がった。

石川も最後の力を振り絞り、同じ技に挑戦した。彼は腰を低く沈め、回転し始めた...

「バキッ」

奇妙な音と共に、石川の動きが止まった。

「あ...」彼は固まったまま言った。「腰が...」


「へへへ...実はちょっと腰を痛めてて...」石川はぎこちない笑顔で説明した。彼は砂浜で横になり、背中にアイスパックを当てていた。

「やりすぎたんだよ」富山はため息をつきながら言った。「いい大人が...」

「でも楽しかったじゃん!」千葉は笑いながら言った。

キャンプファイヤーの熱気は冷め、多くの参加者は自分のサイトに戻っていった。佐藤夫妻も心配そうに石川のそばに座っていた。

「若い時はこういうこともあるよ」佐藤さんは優しく言った。「私も若い頃は何度も腰を痛めたものだ」

「どうやって治したんですか?」石川は痛みに顔をゆがめながら尋ねた。

「年を取ることさ」佐藤さんは笑った。「若いうちに思いっきり楽しんで、いい思い出を作ることが大事だよ」

「痛いけど...最高の思い出になりました」石川は笑顔で言った。


翌朝、石川のうめき声でキャンプ場が目覚めた。

「うぅ...動けない...」

千葉はテントから顔を出し、「大丈夫?」と尋ねた。

「大丈夫じゃない...腰が...死にそう...」石川は寝袋の中で身動きできずにいた。

富山は既に起きていて、コーヒーを入れていた。「だから無理するなって言ったのに」

「でも...グレートなキャンプだったろ?」石川は痛みに顔をゆがめながらも笑った。

「確かに面白かったよ」千葉は認めた。「あの佐藤さん夫妻、すごかったね!」

「プロだったんじゃないかな」富山も少し笑顔になった。「あんな踊り、見たことなかった」

「だろ?」石川は少し体を起こそうとして、「いてっ!」と叫んだ。「もう...年か...」

「まだ20代なのに何言ってるの」富山はコーヒーカップを持って近づいた。「ほら、痛み止め」

「ありがとう...」石川は薬を受け取った。「でも後悔はしてないぞ。あれこそ"グレートなキャンプ"だ!」

「次回は何をやるの?」千葉は好奇心いっぱいに尋ねた。

「次は...」石川は考え込んだ。「水中ヨガキャンプかな...」

「ダメー!」富山は即座に否定した。「まずその腰を治してから考えなさい!」


朝食を終え、彼らがキャンプ道具を片付けていると、佐藤夫妻が様子を見に来た。

「おはよう!」佐藤さんは元気に挨拶した。「腰はどうだい?」

「最悪です...」石川は苦笑いした。「でも楽しかったから良しとします」

「これを使うといいよ」佐藤さんの妻はサポーターを差し出した。「旅行には必ず持ってくるの」

「ありがとうございます」石川は感謝して受け取った。

「次のキャンプはいつ?」佐藤さんが尋ねた。「また一緒にやりたいね」

「是非!」石川は痛みを忘れて答えた。「次回は水中...」

「ダメって言ってるでしょ!」富山が割り込んだ。

佐藤夫妻は笑った。「若いっていいね」佐藤さんは言った。「思いっきり楽しんで、思いっきり痛めつけられて...それも思い出だよ」

「そうですね」石川は微笑んだ。「痛みも含めて、グレートなキャンプの記憶です」

佐藤夫妻と連絡先を交換した後、三人は荷物をまとめ始めた。

「石川、重いものは持たないで」富山は心配そうに言った。

「大丈夫、大丈夫」石川は自分のバックパックに手を伸ばした。「これくらい...うぎゃー!」

彼は再び腰を抱えて倒れ込んだ。

「もう...」富山はため息をついた。「千葉、手伝って」

二人は石川の荷物を分担して持ち、三人でゆっくりと駐車場へ向かった。

「次回はもっとグレートなことを考えるぞ...」石川は腰を押さえながら言った。

「まずは腰を治せ」富山は厳しく言った。

「でも楽しかったよね!」千葉は笑顔で言った。「キャンプファイヤー・ツイストダンス、大成功!」

「そうだな!」石川は痛みに顔をゆがめながらも、笑顔を見せた。「これぞ俺達のグレートなキャンプ!」

「腰を痛めるのも含めて?」富山は呆れた表情で尋ねた。

「もちろん!」石川は断言した。「グレートな思い出には、ちょっとした痛みも必要なんだ!」

三人は笑い合いながら、キャンプ場を後にした。石川の腰の痛みは数週間続いたが、彼らの「グレートなキャンプ18」の思い出は、ずっと長く心に残り続けるのだった。

(おわり)

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『俺達のグレートなキャンプ18 キャンプファイヤー・ツイストダンス』 海山純平 @umiyama117

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