第22話 おじさん、健康診断後にA級戦闘見学
【極楽鳥の巣】。
その名の通り、橙色の輝く羽を持つ極楽鳥(ヘブンズバード)の巣となっている谷で、奴らの魔力によって橙色にうっすらと輝いている。基本的にはこの谷で過ごしているのだけど、子どもが増えすぎたり、獲物が少なくなったりすると、人里を襲う為、定期的に狩らねばならない。
空を飛ぶ上に、特別な力を持つ奴らに襲われれば、よほどの強者でなければなすすべもなく殺されてしまう。
「今回の僕達の目的は、極楽鳥を狩れるだけ狩る事と、巣の回収です」
極楽鳥の巣は、【暗黒の樹海】というここからかなり離れたダンジョンにある暗黒樹という魔力を吸う樹の枝を集めたもので作られているそうで、その枝を装備品にする事でS級ダンジョンに挑みたいらしい。
ダンジョンと魔物を調べ、それに合わせた装備等準備を整え挑む。
基本であり究極。それを忘れずにやっているニコちゃんに思わず頬が緩んでしまう。
「さ! 行くよ! おっちゃん見ててね!」
……うん、ちょっと入れ込み過ぎて他のメンバーに抑えられているけど、まあ、大丈夫だろう。だって、
「……! みんな、戦闘準備1匹単騎で飛んでくるよ!」
耳をぴくりと震わせると状況を的確に伝え、自身も態勢を低くし構える。素晴らしい動きでおじさん感動。他のメンバーも素早く陣形を整えており、俺は事前の打ち合わせ通りその陣形の後ろにつく。
「おおっと……」
躓きかけて慌てて態勢を立て直す。年は取りたくないものだ。
俺は邪魔にならない場所に隠れて、【赤き盾】の戦闘を見守る。
「さああ! みんな行くよ! 【赤き盾】の実力を見せてやろう!」
「「「「「おう!」」」」」
かけた発破に応えるメンバーたちに満足そうに牙を見せるニコちゃん。
そして、暫くして現れた極楽鳥は目の前の大きな盾に慌てて翼をはためかせ急ブレーキをかける。
その盾を右手に構えるニコちゃんは盾の影から極楽鳥を金色の瞳で睨みつけ、咆哮。
「……ビィイイイイイイイイイイ!」
その咆哮、いや、挑発に当てられた極楽鳥が一直線にニコちゃんへと飛んでくる。 とんでもない勢いで砂煙が上がっており、あの一撃を例えばF級冒険者であるユート君が喰らえばひとたまりもなく吹き飛ばされるだろう。
だけど、相手はA級冒険者パーティーだ。ニコちゃんの後ろに控えている魔法使いと弓使いが遠距離による攻撃で極楽鳥の勢いを殺す。
「シャアアアアアアアア!」
支援術士による身体強化を受けたニコちゃんが、谷が震えるのではないかという程の気合を吠えながら盾で極楽鳥の突撃を真正面から平然と受け止める。
信頼故の行動か、ニコちゃんが受け止めるか否かという瞬間に飛び出していたホークさんともう一人の槍使いが両翼を斬り裂く。そして、慌てて翼を『治そう』と浮かぼうとした極楽鳥を彼女は逃がさない。
「遅い」
それよりも早く宙に飛んだS級冒険者は大盾を振り下ろし極楽鳥を地面へと落とす。
そして、そのまま地面とサンドイッチすると極楽鳥の血が飛び散る。その血が地面に落ちるより早く盾を引き、左手に構えていた短剣を振り、首を落とす。
魔力を纏わせた短剣はまるでお豆腐でも斬るかのようにスパッと音もなく美しい断面を見せた。
引き上げた盾は極楽鳥の血に染まりその名の通り【赤き盾】となっている。
「お見事」
俺の溢した賞賛が虎人族の彼女の耳には届いたのだろう。自慢の身体能力を活かし大盾で敵のあらゆる攻撃を受け止め、魔力を纏った短剣を振り一瞬で命を刈り取る。
【嵐虎】の二つ名を持つ虎人族の大盾使い、かつてはびくびくと震えていた少女だったニコちゃんが牙をむき出し笑う。
「よっしゃ、じゃあ、次はおっちゃんの番だな」
A級パーティーの見事な連携とS級冒険者の圧倒的な実力を見せられたおっさん。
そんなおっさんにどうしろと?
そんな言葉を飲み込み折角毒効果が消え去ったのに痛む胃を抑えながら俺は苦笑いを浮かべた。
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